来年の相場展開を予測する上で、12月15日に発表された日銀短観は重要な意味を持つ。日銀短観は業種別や大企業・中小企業といったカテゴリー毎に、現在の状況だけでなく今後の先行きについて各社の経営陣がどのような見通しを持っているかをつぶさに理解できる重要な資料だからだ。
今回の日銀短観を見ると、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが1ポイント悪化した一方で、大企業非製造業の業況判断DIは3ポイント改善するという結果になった。製造業ではこれまで進んでいた生産拠点の海外進出などの影響により円安メリットを十分に享受できなかったという背景が大きい。また、消費増税による内需の悪化により在庫の積みあがりをうまく解消できなかったのも大きな原因であろう。
先行きについては大企業・中小企業ともに弱気の見通しとなっている。これは円安による原材料価格の上昇や人手不足による人的資源確保のためのコストに頭を悩ませている企業が多いからだと考えられる。
株式の個別銘柄選定に関しては逆にこのような悪影響が少ない企業、具体的には消費増税の影響からの内需立ち直りの好影響を素直に受け取ることができ、在庫が無い又は捌け方の順調な企業を決算資料を分析しつつ探すことになる。
また、政治が経済に与える影響力も無視することはできない。前述した通り消費増税のインパクトは大きく、当初政府が想定した以上に景気回復の腰を折ってしまったのは事実だ。先日行われた衆院議員選挙では与党である自民が大勝を収め、安倍首相による長期政権樹立がほぼ確定したような状況であるが、景気条項を撤廃し2017年4月には否応なしに10%への増税が確定しているという背景があっては最早小さな失敗も許されない背水の陣で景気対策に取り組むしかない。ポイントとなるのは第三の矢であり、下がるエネルギー価格や円安を活用しつつ、いかに内需の盛り上がりに繋げていくか、その手腕が問われることになるだろう。
その他、世界全体でみた政治・経済状況の把握も重要だ。中国ではやや景気の失速が見られ、かつての世界経済の牽引役としての存在感は薄くなってしまっている。また、ロシアはエネルギー価格の下落やウクライナを巡る世界中からの経済制裁に苦しんでおり、つい先日も巨大銀行ズベルバンクに一時的ではあるが取り付け騒ぎの噂が出回るなどやや不安定化している印象が強い。欧州ではドイツを中心とした北欧勢の景気は堅調だが、同じユーロ圏内の南欧諸国ではここ数年来の政府債務問題の影響が燻り続けており欧州中央銀行の金融政策に関する舵取りは更に難しくなりそうだ。
最後にアメリカだが、こちらは8年ぶりに共和党が議会を支配することになる。大統領はもちろん民主党のバラク・オバマだが議会との「捻じれ現象」による政治の停滞が懸念材料になる。特に債務上限引き上げ問題は事ある毎に市場に大きな影を落とすため、この問題が政治的な駆け引きの材料に使われないことを祈りたい。
結論として、15年の相場難易度は14年に比べ更に高くなると考えられるが、株式市場に関する大局的な想定としては基本的に上方向と見たい。アベノミクスが(消極的ながら)信認を得た衆院議員選挙の結果と、日銀黒田総裁のブレない姿勢を見ても政府と日銀が一枚岩となって景気回復や物価上昇を目指し戦っていくのは間違いないからだ。
しかし、その一方で年間を通しての相場変動率は14年以上に激しいものになると見る。世界的に見れば不確実性が高まっており、その煽りを少なからず受ける場面は必ずあると考えるからである。
具体的な投資戦略としては、個別株をあまり長期で持つ場面ではなく、常に相場のテーマとして注目されている銘柄をフットワーク軽く飛び乗り、飛び降りるのが良いであろう。また、突発的な急変に対処するために日経オプションといったデリバティブの活用もかなり有効になるはずだ。(編集担当:武田薩樹)