■史上最低金利の国債を保有していても……
2014年12月26日、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが一時0.300%まで低下し、「第1次黒田日銀サプライズ緩和」直後の2013年4月5日につけた0.315%を突破して過去最低を更新した。長期金利0.300%は明治時代に始まる日本の金融史だけでなく、世界の金融史でも最低水準。17世紀のイタリアの都市国家ジェノバで記録され、1998年に日本に破られるまで最低記録を保持し続けた1.125%よりもずっと低い。
その日本国債は2014年12月1日、ムーディーズにより「Aa3(ダブルAプラス相当)」から「A1(シングルAプラス)」に1段階格下げされていた。しかし日銀が国債の大量買入オペの手をゆるめず、その後も市場金利は低下し続けた。26日に史上最低金利を更新した直後、メガバンクなど大手銀行は住宅ローン金利の引き下げを相次いで発表した。
金利の低下は国債価格上昇を意味するから銀行の保有資産が増えるからいいと思うかもしれないが、1億円を10年間預けても利子が300万円しかつかない0.300%では、預金金利との差で銀行業務に伴うコストをまかなうなど、とてもできない。住宅ローンは採算ラインぎりぎりの史上最低水準。国内では、リスクを取って企業貸付に活路を見出すか、投資信託や保険の販売など手数料収入が得られる業務を開拓していく以外に活路はない。
それでも、三大メガバンクには新規IPOの際の新株引受などで手数料収入を得ている証券子会社があり、信託銀行とも提携し、海外業務も行っているのでまだ恵まれているほう。2014年11月に発表された4~9月期決算では、みずほ<8411>は通期業績見通しを据え置いたが、三菱UFJ<8306>は経常利益を上方修正、三井住友FG<8316>も最終利益を上方修正した。3グループとも最終利益の通期見通しに対する進捗率は6割を超えている。金利低下で国内の貸出が苦戦して業務純益が減少しても、みずほ以外は海外事業の粗利率に占める割合が拡大して収益を押し上げていた。
三大メガバンクは2013年4月の日銀緩和以降、国債保有残高を長期債を中心に減らしているが、2014年4~9月の半年間でその総額は3%近く減少した。債券は金利低下で高く売り抜けることができ、その売買収益も全体の収益に貢献している。
■再編で広域地銀が誕生しても状況は厳しい
だが、第二地銀も含めると100行以上ある地方銀行はメガバンクとは事情が異なる。海外業務は微々たるもので国内業務が大部分。保有する国債の利子収入が減る一方で、信託との提携もごく一部だけ。投資信託の窓口販売の手数料に依存する度合いが高まっている。しかも高齢化、人口減少が続く地方経済はアベノミクスの恩恵が及ぶのが遅れ、安倍内閣は「地方創生」を唱えて地方経済の活性化を優先させているような状況。地元の資金需要が盛り上がるような時期が来るとしてもまだまだ先になりそうだ。「生き残るには再編しかない」という認識は、大部分の地銀の経営陣も金融庁も同じだろう。
2014年は、東京が基盤の東京都民銀行と八千代銀行が10月1日に経営統合して東京TYFG<7173>が発足し、東日本銀行<8536>と横浜銀行<8332>が2016年4月に統合することも決まった。肥後銀行<8394>と鹿児島銀行<8390>が2015年10月の統合を検討というニュースも流れた。茨城県の筑波銀行<8338>、栃木銀行<8550>、群馬県の東和銀行<8558>の間で包括連携協定も結ばれた。
2015年はこの地銀再編の動きが加速する年になるのはまず確実だろう。2014年は再編含みで地銀銘柄全体の株価は好調だったが、2015年も「あそことあそこか?」という噂が出たり、それが新聞記事になればマーケットも敏感に反応しそうだ。そんな再編の動きの追い風になりそうなのが、秋頃とみられるゆうちょ銀行の上場である。上場してマーケットから資金を調達すれば、利益をあげてそれを株主に還元するために積極的な戦略に打って出ることは、まず間違いない。地銀が当面の収益源として頼みにする投信の窓口販売も、地域に密着した郵便局がどんどん攻勢に出て、侵食してくることだろう。
となると、あとはリスクを取って地域の企業への貸付に活路を見出す道しかない。だからこそ金融庁は貸付能力が高める地銀再編を促しているわけだが、もし大規模再編で県境をまたぐ「広域地銀」が誕生したとしても、総合的な貸付能力という点ではメガバンクとは決定的な違いがある。それはリスクを取れるようなノウハウと人材がどうしても不足していることである。
地銀の企業貸付はおおむね保守的で、信用保証協会の保証付きか、不動産など十分な担保があるものにほぼ限定されてきた。投資ファンドと提携して地域のベンチャーファンドを立ち上げるなど外面はとりつくろっても、支店レベルでは旧態依然たるもの。たとえば、地元企業が海外企業と提携してプロジェクトを始めたいと地銀の支店に相談を持ちかけても、支店にはそのプロジェクトの価値や成長性やリスクを正当に評価できるだけのノウハウもなければ、評価や与信で大きな責任を移譲されている人材もいない。そこで本店審査マターにされている間に遅れをとる。そうやって将来有望な企業やプロジェクトへの貸付のチャンスをみすみす逃してしまう。この点は、一部の先進的な信用金庫のほうが地銀よりも先をいっている。
そのままでは、県境を超える地銀の大再編が行わたとしても、統合した日からまるで魔法にかかったようにメガバンクにもひけをとらないノウハウと人材が揃う、はずはない。旧態依然たる支店の数ばかり増えるだけ。資金量は大きくなっても、その数字だけが貸付能力ではない。それをうまく使って稼げるパフォーマンスが決定的に不足していたら、現状のままじり貧になっていくだけである。
■重要なのは「積み木」ではなく再編の中身
2015年、地銀の再編話が頻繁に聞かれるようになると、再編という材料に対するマーケットの見方も変わってくるはずだし、そうなることを期待したい。
最も時代遅れな見方が数字の「積み木」である。「A銀行とB銀行が統合したら地銀○位になる」とか「××地方でトップ地銀に躍り出る」といった紋切り型のフレーズだ。資金量がいくら大きくても、それをうまく使って稼げなければ宝の持ち腐れになる。マーケットはもう、合計の資金量のような数字だけでは地銀再編を評価しなくなるだろう。
積み木よりも、パフォーマンスを向上させるためにどんな対策をとるかが注目されてしかるべき。企業やプロジェクトを正当に評価し、リスクを取った貸付に積極的に乗り出せるように、こんな企業とアライアンスを組んだ、こんな人材を招いた、こんな新組織を立ち上げたといったニュースがより重視されるようになるだろう。新組織も銀行の外部に付け加えるだけでは不十分。支店の組織までメスを入れるような内部改革が必要になる。
たとえば、先進的な信用金庫と提携してその教えを請うぐらいなら改革は本物。「我々は腐っても銀行だ。信金なんかに頭を下げられるか」などと、つまらないプライドが邪魔するようではまだまだ。これはほんの一例だが、そこまでやってこその地銀再編である。「地方創生」の政策効果を十分に享受して業績に反映させられる地銀、生き残れる地銀は、そんな改革に意欲的な姿勢を見せるところに他ならない。マーケットもそれを評価して株価は右肩上がりになるだろう。投資家もそろそろ積み木の発想から脱却して、再編の中身を詳細に吟味して行動するようにしたい。(編集担当:寺尾淳)