インターネットの普及によって、取引成立の速度が加速している。企業間の取引においても、これまで立ちはだかっていた大きな壁が急速に取り払われ、市場の形態が急激に変容している。それが顕著な業種として、半導体などの電子部品業界が挙げられるだろう。
半導体・電子部品業界はこれまで、大手メーカーとの直接取引をメインにした業態が中心だった。ところが、ここ数年でeコマースが拡大し、ECサイトを利用した取引が急増している。利用しているのは中小企業や異業種、新興ベンチャーなどが中心であるが、最近では大手メーカーの利用も増加しているという。
そんな中、電子・電気部品、産業用部品の通信販売会社・アールエスコンポーネンツ社は1月9日、同社が独自開発している無料の基板用CADツール「DesignSpark PCB(デザインスパークPCB)」の最新版となるバージョン7、および「リファレンスデザイン」計34点を、同社が運営するエンジニア向けコミュニティーサイト「DESIGNSPARK(デザインスパーク)」内において無償提供を開始した。DesignSpark PCBはプリント基板設計用のCADツールで、世界で約30万人もの利用者を誇る人気ツール。今回提供されたバージョン7では、オンライン上の部品データベースと連携し、使用部品の在庫状況の確認、見積り、さらには手配に至るまで、設計画面からワンクリックで参照することができる。
バージョン7のリリースに伴って、無償で提供される「リファレンスデザイン」とは、電源回路やLEDドライバ・モータドライバ・電力線通信・非接触給電などのソリューションをDesignSpark PCB上で展開して編集可能なCADデータ(回路図・基板レイアウト図・部品ライブラリ・部品表など)にしたもの。いわば電子基板設計のテンプレートだ。今回、ローム株式会社の「DC/DCコンバータ」や、パナソニックセミコンダクターソリューションズ株式会社の「電力線通信IC」、ルネサスエレクトロニクス株式会社の「GR-KURUMIボード」など、国内外の主要半導体メーカーが作成した計34点が公開されている。
これまで、こういったサービスは高価なツールとして、ある意味限定的に提供されてきたもので、DesignSpark PCBのように誰でも使える無償のツールとして提供されるのは異例だ。ユーザーは回路設計をスムーズに行うことができるだけでなく、部品調達を含むプロトタイプ開発を短期・低コストで実現できるので、大手メーカーだけでなく、中小企業や新興ベンチャー企業での小口需要が拡大することが見込まれている。メイカーズ(個人で営む製造業)も注目される昨今、DesignSpark PCBに対する半導体メーカーの期待は高い。(編集担当:藤原伊織)