■業種全体は好調でもソニーだけ問題児のまま
電機業界は自動車と並んで「アベノミクス相場における日経平均上昇の原動力」の業種だった。表面上は建設、不動産、海運などのセクターの値動きが派手だったイメージがあるが、2年前のアベノミクス相場初期から現在に至るまで一貫して日経平均を支える柱のセクターは自動車(TOPIX33業種別分類では輸送用機器)と電機(同じく電気機器)だった。典型的な輸出型産業で為替の円安の恩恵をたっぷり受けただけでなく、技術的なイノベーションの好材料にも事欠かなかった。
ソニー<6758>、パナソニック<6752>、シャープ<6753>が相次いで巨額の最終赤字を計上しマーケットに衝撃を与えた2012年11月上旬、電気機器セクターのTOPIX業種別株価指数は800台だった。その月の15日から「アベノミクス相場」が始まり、2013年1月4日の大発会の終値は1090.30で、その年の大納会の終値は1606.94。1年の間に47.4%も上昇した。2014年は2月4日終値の1435.92が最安値、12月5日の2025.74が最高値で、その間に41.1%上昇している。これは日経平均の年間騰落率7.1%の5.8倍というペースである。2014年大納会の12月30日終値は1930.66で、2012年11月の800台の2倍を超えている。2013年も2014年も、電機業界はその好業績と話題性で日本株全体の株価を押し上げた「優等生業種」だった。
しかし、2年と少し前に巨額の最終赤字を計上した3人の「問題児」が全員、「優等生」に生まれ変わって先生を喜ばせたわけではない。最も心配されていたシャープは、2014年12月12日に完了した大型増資によって自己資本比率が9月末の6.4%から12%台に高まるなど、財務の改善が大きく進んだ。年間66円の株価下落は、増資による希薄化というテクニカルな代償にすぎない。パナソニックも「住宅と自動車」への「選択と集中」戦略が大きく進展し、事業と財務のリストラを好感されて2014年の1年間で株価が1224円から1427円へ16.6%上昇した。12月8日には1563.5円の年初来高値をつけている。ところが、「問題児だがみんなに人気抜群」のソニーは、また〃非行〃をやらかした。
9月17日の大引け後、「上場以来の無配転落」の衝撃がマーケットを駆けめぐり、翌日の株価は183.5円安で8.64%下落し値下がり率ランキング2位。iPhoneと中国製スマホに挟撃されて「Xperia」が売れなくなり、頼りにしていたモバイル・コミュニケーション事業で転んで約1800億円の営業権の減損処理。通期の最終赤字を前期の約1.8倍の2300億円に下方修正して2年前と同じ「巨額最終赤字」見通しになった。しかしその後、ソニーは10月29日に終値ベースで2000円台を回復し、12月5日に2677円の年初来高値をつけている。腐っても鯛の人気銘柄で、「ソニーは2015年度、復活を遂げるはずだ」と、投資家にも多い〃ソニーファン〃は見捨てていないようだ。
■ソニー復活は「Xperia Z4」次第か?
ソニーファンが願っているように、もし「2016年3月期の最終利益はV字回復し大幅な黒字。配当は復配」というニュースが流れたら、電機業界にとって、いや日本株全体にとって「ニッポンやはり強し」を世界に印象づける象徴的な出来事になる。かつてのソニーショックとは逆に、日経平均が一段高になるぐらいのインパクトがあるだろう。ソニーの今年の展望が電機業界の今年の展望だと言っても、決して過言ではない。
「ソニー復活」の可能性はどれぐらいあるのだろうか? 最大の焦点はスマホのXperiaが逆襲を果たすかどうかだろう。2015年は今のところアップルの新型iPhoneの発売は秋になる見通しで、その前には注目の「Apple Watch」や「iPad Pro」が発売されるので、アップル製品への関心が分散されるかもしれない。サムスンのGalaxyが自滅状態という敵失もある。中国勢のスマホ上位機種は依然強敵だが、ソニーも新型機種「Xperia Z4」の投入でスペック面での優位性は保てそうだ。噂通りにZ4が5月頃に発売されれば、新型iPhone発売までの間に販売実績を積み上げることはできそうだ。国内では5月発売分のスマホ、携帯電話から「SIMロック解除」が適用されるという追い風も吹く。
なお、2014年7月にパソコン部門がソニーから完全独立したVAIO社が2015年1月に日本通信<9424>との共同開発でスマホ事業に参入するが、いわゆる「格安スマホ」でスペックが大きく異なり、VAIO社も5%出資している大株主のソニーとは「戦う気はない」とコメントしている。
それ以外のソニー復活の芽としては、1月11日に中国で発売される「PS4」が、2月18~24日の旧正月休暇を前にした春節商戦でどこまで販売を伸ばせるかも注目の的。2014年まで14年間、家庭用ゲーム機の販売が禁止されていた「最後の処女地」にして世界一の大市場だから、ソニーが任天堂<7974>やマイクロソフトのゲーム機をしのぐ人気を得れば前途は明るくなる。同じくソニーが復活の柱にしたいエンタメ部門は北朝鮮の体制を茶化した娯楽映画がハッカー攻撃を受けたが、いい宣伝にはなった。続編でも製作して逆手にとるぐらいのしたたかさがほしいところ。2014年に新事業として立ち上げた不動産事業は2015年からリフォーム市場に本格参入する。かつてソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行など異業種に参入して大きく育った実績があるだけに、その成り行きも注目される。昨年11月に打ち出した事業分野ごとの中期戦略に対するマーケットの評価は決して悪くなく、株価は上昇して12月5日に年初来高値を更新している。
■マイクロソフト新OSでパソコンが売れる?
ソニー以外の電機業界の2015年のトピックとしては、やはりアップルを抜きにしては語れないだろう。「Apple Watch」「iPad Pro」「新型iPhone(7?/iOS9搭載?)」と立て続けに製品がリリースされる。その発売が近づいたり販売実績数字が発表されれば、村田製作所<6981>、アルプス電気<6770>、ミツミ電機<6767>、太陽誘電<6976>などアップル関連の電子部品銘柄の株価を押し上げそうだ。
NEC<6701>、富士通<6702>、東芝<6502>などのパソコンメーカーにとって2015年の売上の行方は、年内にリリースされるマイクロソフトの新OS「Windows10」にかかっていると言っても過言ではないだろう。「7」までの使い勝手と「8」のタブレット対応の機能を兼ね備えると言われ、本当にそうなら「7」搭載パソコンユーザーに、新OS発売とともにパソコンを新調したいという需要を呼び覚ますには十分。1月13日に「7」のメインストリームサポートが終了し、7月15日にサーバーOS「Windows Server 2003」のサポートが終了することも、買い替えをためらう企業ユーザーの背中をドンと押すだろう。パソコンは利益が出ない部門だと長年言われ続け、ソニーはファンのブーイング承知でVAIOを手放してしまったが、販売台数が出ればそれなりに利益に貢献するだろう。
電機業界の2015年は、不確定要素がいろいろ出てきて邪魔しそうだが、業績向上、株価上昇につながる好材料の素は相変わらず豊富に揃っている。(編集担当:寺尾淳)