課題だった若手ライダー育成でヤマハが出した答えとは?

2015年03月14日 20:38

創立60周年を迎えたヤマハが若手ライダーの育成に取り組む

国内最高峰であるJSB1000に参加する「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」(写真左)と「YAMALUBE RACING TEAM」の選手と監督。

 ヤマハ発動機<7272>が3月6日に東京都内で「2015年ヤマハモータースポーツ活動計画発表会」を開催した。その中で、今シーズンはファクトリー体制の「YAMAHA FACTORY RACING TEAM(ヤマハ ファクトリー レーシングチーム)」に加え、若手人材育成のユースチームとして新たに「YAMALUBE RACING TEAM(ヤマルーブ レーシング チーム)」を発足し、全日本選手権に参戦すると発表。また今年はヤマハ創立60年の節目の年でもあり、世界選手権や全日本選手権での活動に加え、アジアロードレース選手権250ccクラスへの参戦など新たな取り組みも行う。

 代表取締役副社長である木村隆昭氏は、「ヤマハのレースの歴史は、1955年7月の設立からわずか10日後に参加した、“第3回富士登山レース”から始まった。それ以来、国内外で積み重ねてきた挑戦の歴史は、ヤマハ発動機グループの歩みそのものであり、そうした活動から生まれたチャレンジスピリットは私たちの大切な企業文化のひとつとして根付いている」と、レースの重要性を語った。

 ヤマハがレース活動を行う上で、掲げる3つの基本方針とは?

 まず1つ目は、「ヤマハブランドの価値を高める」こと。ブランドスローガンでもある“Revs Your Heart”は、エンジンの回転が上がるように、人々の心を昂ぶらせ、昂ぶらせたいと思う意志を表した言葉で、モータースポーツはこのメッセージをダイレクトに伝えてくれる。2つ目は、「製品の性能や品質の向上につなげる」こと。たとえばMotoGPマシンであるYZR-M1の技術を、市販車にフィードバックする。まもなく欧州から市場導入が始まる、YZF-R1はその象徴とも言える存在。3つ目は、「レース文化の振興やレースの普及に向けた取り組み」。モータースポーツをする喜びや、観る喜びを世界中に広げる普及活動は、ヤマハの伝統的な活動のひとつ。とはいえ、ヤマハレーシングブルーが世界で活躍するためには、国内におけるレース活動も重要だ。モノ作りのグローバル化が進んでいるが、それでもコアとなる技術や人材育成は日本を中心に行っている。日本で生み、育て、磨いた技術によってグローバル化を推し進めるプロセスはレース活動も同じなのだ。

 続いて、同社MS戦略部部長の尾崎幸宏氏が登壇し、2015年のモータースポーツ活動について語った。「2015年の全日本でのファクトリー活動は、世界で展開する各カテゴリーのレースにも大きな影響を与えることになり、すでに発表している2016年ワールドスーパーバイクへの復帰もそのひとつ。また、全日本ロードレースとモトクロスには、若手ライダーを育成するユースチームを新設。これはチャレンジの持続性、つまりヤマハレーシングスピリットを誰にどのように受け継がせるのか、新たな取り組みとなる。さらに鈴鹿8時間耐久レースではファクトリー体制で1996年以来の優勝を目指していく」

 ただ、人材開発や人材育成については大きな壁にぶつかったという。例えば、国内最高峰の全日本ロードレース選手権JSB1000クラスで昨年3連覇を達成した中須賀選手、彼のスピリットを受け継ぐ、若い選手が育つのだろうかという疑問があった。そこで、課題をクリアするために、国内ではユースチームを発足したのだが、さらにグローバルな視点で考え、アジアの中のニッポン、アジアから世界へという育成の道筋を定めることにした。その第一歩となるのが、アジアロードレース選手権に、グローバル展開したYZF-R25で参戦することだった。これにはインドネシアやタイ、マレーシア、韓国、香港、オーストラリアの6各国、総勢13名の若手ライダーが出場する。アジアンライダーが秘めるポテンシャルには驚くばかりで、昨年の鈴鹿4時間耐久レースで優勝したインドネシアや、全日本ST600、JGP2で活躍したタイが実力を証明している。活躍次第では、全日本選手権さらには世界選手権Moto2 クラスへのワイルドカード出場もあり、次なるステップアップ機会の創出にも取り組んでいく。

 アジアの新興国では、スクーターが生活の足として長らく使用されてきたが、近年ではスポーツモデルを市場に投入させたことにより、モータースポーツへの関心が高まってきている。さらに、スポーツモデルの市場規模も拡大しているので、アジアの若手ライダーを育成する土壌は整ったと言える。日本国内だけではなく、若者のチャレンジを支援する取り組みは、順次、世界中へと展開していく、そういったヤマハのチャレンジにも期待したい。

 ■2015年の国内レース参戦体制
 
 ・全日本ロードレース選手権
 国内最高峰のJSB1000クラスには、昨年のJSB1000クラスで3連覇と、前人未到の5回目のチャンピオンを獲得した中須賀克行選手が「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」から参戦。また、新たに発足した、若手育成を担う「YAMALUBE RACING TEAM」からは、野左根航汰選手、藤田拓哉選手が参戦する。両チームとも新型「YZF-R1」にて出場。

 ・全日本モトクロス選手権
 国内最高峰のIA1クラスに、昨年ランキング5位の平田優選手と、IA2クラスからステップアップした安原志選手が「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」から出場。IA2クラスは、渡辺祐介選手が若手を育成する「YAMALUBE RACING TEAM」から出場。マシンは、IA1クラスが「YZ450FM」、IA2クラスが「YZ250F」を使用し、各クラスでのチャンピオン獲得を目指す。

・全日本トライアル選手権
 国内最高峰のIAスーパークラスに、「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」から昨年2位だった黒山健一選手が「TYS250F」にて出場。全日本選手権で自身が持つ11回というチャンピオン獲得記録の更新を目指す。(編集担当:鈴木博之)