【今週の展望】権利確定イベントの26日に2万円タッチ?

2015年03月22日 20:38

 その一つは「目標設定理論」。1968年にアメリカの心理学者ロックが提唱したもので、簡単に言えば、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされるというもの。あのドラッカーも組織マネジメントの「目標管理」を提唱している。東京市場には「日経平均2万円」という、モチベーションを維持するには高すぎず、低すぎない理想的な目標が存在している。しかも一部の市場関係者がしきりに「2万円」「2万円」と〃願文〃を唱え続けるから、それもマーケットのモチベーションをかき立てる。「ウソも百回言えば真実になる」と言ったのはヒトラーの腹心の宣伝相ゲッベルスだが、願文でも百回言えばかなってしまうのか? ナチス・ドイツといい、今月の東京市場といい、人間の心理とは、げに恐ろしい。

 もう一つは、アメリカの経済学者ライベンシュタインが1950年にスノッブ効果、ヴェブレン効果とともに提唱した「バンドワゴン効果」である。カーニバルのパレードで楽隊が乗った山車(バンドワゴン)を子どもたちが追いかけるのにたとえて、浮かれ騒いで勝ち馬に乗ろうとする現象。行動経済学(行動ファイナンス)でも「バスに乗り遅れるな」というマーケット心理の説明で使われる。それは裏返せば「乗り遅れ恐怖」でもある。

 さらに「ゴルディロックス」という言葉を引き合いに出す人がいるかもしれない。「3匹のクマ」という英国の童話に出てくるスープの熱さ、ベッドの硬さのような「ちょうどいい状態」を、主人公の女の子の名前にちなんでそう呼ぶようになった。地球のような、生命の誕生と進化にとって奇跡的にちょうどいい惑星を天文学で「ゴルディロックス惑星」と言ったり、波風が立たないちょうどいい経済の状態を「ゴルディロックス経済」と言ったりしている。ドル円レートは安定し、経済指標は消費増税後の停滞から脱しつつあり、しかも大企業の好決算が続出しベアの大盤振る舞いで個人消費期待が高まっている国内のファンダメンタルズや、需給状況が改善して年金資金や日銀や個人の押し目買いが下支えする東京市場の現状を「ゴルディロックス」と呼んでも、あながち外れてはいないだろう。

 そんなゴルディロックスのもと「日経平均2万円」という目標設定と願文のご唱和でマーケット心理が管理され、「バンドワゴン効果」「乗り遅れ恐怖」で投資家がせかされた結果が、前週までの6週間合計で1911円という上昇なのではなかったか? 先物の「踏み上げ」のようなテクニカルな要素とか、統一地方選挙が近いという政治的な要素はむしろ脇役で、マーケット心理はテクニカル分析などすでに凌駕してしまった。重ね重ね、人間の心理とは、げに恐ろしい。

 となると今週、意識すべきなのは何よりも「心理的節目」で、平たく言えば「キリのいい2万円にタッチするか?」になる。その可能性が最も高いのは、権利確定イベントでイレギュラーな買いが現れやすい権利付き最終売買日の26日ではないか? すでに、配当取りを狙う投資家の群れにエサをまいてあおるように増配の発表が相次いでいる。また、逆日歩がつかない一般信用取引を利用するクロス取引で低コストで株主優待を手に入れるテクニックもけっこう知られるようになったので、26日は権利取りの買いがピークを迎えると思われる。翌27日になると始値段階で配当権利落ち分が自動的に下落するだけでなく、権利取りのオーバーナイトのトレードで前場に売りが出ることは十分に想定できる。過去10年のデータを見ても、3月の配当権利落ち日の日経平均終値が前日の権利付き最終売買日のそれよりも高かったケースは2006年と2013年の2回しかなく、8割の確率で下落している。

 とりあえず、需給をチェックしよう。東証が19日に発表した3月第2週(9~13日)の投資部門別株式売買動向によると、海外投資家は5週連続で買い越し、個人は8週連続で売り越しで、年金資金もバックにある信託銀行は2週連続で売り越しだった。信託銀行の売越額が33億円から354億円に増加したのが気になるものの、海外投資家の買越額は2100億円から3062億円に大きく伸び、個人の売越額1420億円の2倍以上ある。ここにきて海外投資家が主役に躍り出た感があり、これが「2万円」をもたらす原動力の筆頭候補だろう。20日に国内の年金資金4団体が「日本株25%」という共通ポートフォリオを発表したが、ザラ場中のウォールストリートジャーナルの第一報にビビットに反応したのは主に海外投資家だった。

 一方、信用の需給は3月2~6日の週から信用売り残が減って信用買い残が増えるトレンドに転換し、1月16日の5.72から2月27日に3.53まで低下した信用倍率は、反発して3月13日時点では3.68まで上昇している。海外投資家の大幅な買い越し、信託銀行の売り越し転換、信用の需給の3月に入ってからの変化に「そろそろ潮目が変わるか?」という予感もなくはないのだが……。