ハイブリッドで先行した日本、欧州で始まったダウンサイジング。2つのトレンドが市場で激突する

2015年06月27日 19:04

Stepwgn_S

写真の新型ホンダ・ステップワゴンは、ダウンサイズした1.5リッターターボエンジンだけを搭載する。ダウンサイジングコンセプトは省エネを指向するが、一方でパワーを得るための最大効果も得られる。次回はその辺りのコトを……

 欧州、とくに独フォルクスワーゲン(VW)社が推進してきたガソリンエンジンのダウンサイジングとターボ&スーパーチャージャー(SC)化の波は確実に日本にも波及している。ターボ&SCは走りの性能だけでなく燃費にも効くという概念が一般にも確実に浸透してきたようなのだ。

 独VW社は、同社代表車種の先代ゴルフ後期モデルで、初めてダウンサイジングコンセプトを発表。それまで2リッター・ガソリンエンジンをメインとして、高性能モデルでは3.2リッターV6エンジンをも搭載してきた同車が、新開発TSI型1.4リッター・ターボエンジンに換装して話題になった。小さなエンジンをノーズに収めた効果は歴然としており、圧倒的に軽くなった鼻先を得て、抜群の回頭性をゴルフに与えた。この軽快なハンドリングの素晴らしさが世界で評価され、その後の世界のクルマの心臓の“ダウンサイジング”が進む。

 いち早く国産車でダウンサイジングに取り組んだのは日産のコンパクトカー、ノート。2012年にターボではなく、同様の効果が得られるスーパーチャージャーで排気量ダウンに取り組んだ。日産ノートは、さらに4気筒から3気筒エンジンへエンジンのサイズ縮小に挑んだ。

 搭載するパワーユニットは、ノートのために新開発したエンジンで、1.2リッター直噴ミラーサイクル直列3気筒可変バルブタイミング機構付きDOHCスーパーチャージャーで、最高出力98ps/5600rpm、最大トルク14.5kg.m/4400rpm。ターボがエンジンの排気でタービンを回しコンプレッサーを動かすのに対してスーパーチャージャーは、エンジンの駆動力でコンプレッサーを駆動する過給器で応答性がターボよりも速くあり、低回転域から太いトルクを発生する。加速・登坂時などのパワーが必要なシーンでスムーズな加速性能が得やすい。

 組み合わせるトランスミッションはエクストロニックCVT。エンジン回転数に合わせ、電動クラッチでON/OFFを効率よく制御することで、低燃費と気持ちの良い加速性能を両立した。アイドリングストップなどの省エネ対策機構を組み合わせJC08モード燃費25.2km/リッター(S DIG-S)、24.0km/リッター(X DIG-S)を達成している。

 トヨタ自動車も2015年4月に発売した新型「オーリス」でダウンサイズしたターボエンジンを採用した。しかも、かなり冒険と思えるグレード&価格設定をしているのだ。排気量が最も小さい1.2リッターターボエンジン搭載車の価格を最も高く設定したのである。これまで排気量至上主義だったトヨタ車のヒエラルキーを無視したこのラインアップが消費者に受け入れられるのか、興味深い。

 オーリスのエンジンは、1.2リッター直噴ターボ、1.5リッター自然吸気、1.8リッター自然吸気の3種類。1.2リッターターボエンジンは、排気量が小さいのでエンジンは小型で軽量、車両のノーズが軽いため軽快なハンドリングが得られ、燃費も良くなっている。その1.2リッターエンジンは、最高出力116ps(85kW)/5200~5600rpm、最大トルク18.9kg.m(185Nm)を1500~4000rpmの幅広い回転域で発生させ2リッタークラスに匹敵する性能を持つ。ただ、高価になりがちなターボエンジンの価格を吸収するため、1.8リッター車よりも装備を充実させて価格を高く設定したという。

 トヨタでも「日本でターボモデルがどの程度売れるかは未知数」という。しかもターボ周辺部品の価格についても需要が増えれば安くなるという図式には、まだ至っていないという。今のところ、国産ダウンサイジングターボ車は、性能が良いけれど価格も高くなる傾向にあるようだ。

 しかし、そうした一般論をホンダはブレークスルーしたようだ。同社の5ナンバーミニバンのベストセラー「ステップワゴン」をフルモデルチェンジし、2015年4月に発売した。5代目となる新型ステップワゴンは、先代と同じ3列シートのミニバンである。大人数で乗っても加速性能や燃費を損なわないように、排気量1.5リッター直噴ターボエンジンをホンダ車として初めて搭載した。この新エンジンは、街乗りなどの常用域で2.4リッター自然吸気エンジン並みのトルクと、JC08モードで17.0km/リッターの低燃費を実現する。そのアウトプットは最高出力150ps(110kW)/5500rpm、最大トルク20.7kg.m(203Nm)/1600~5000rpmだ。ほぼ全域で最大トルクが得られる素晴らしい特性のエンジンだ。

 同エンジンのターボチャージャーには、エンジンの回転数の変化に対する応答性が良い三菱重工業製小径タービンを採用した。小径タービンを採用したことで、エンジンの回転数が低く排ガスの流量が少なくても、タービンを駆動させやすいため、低回転域から過給できる。また、過給圧を任意に調整できる「ウェイストゲート」を電動で制御し、過給領域での排気ロスを減らすことで燃費の悪化を防いだという。

 この新型「ステップワゴン」は、ダウンサイジングターボ車のみのラインアップ。意識的に自然吸気エンジンのモデルは用意していない。今後とも同ステップワゴンには、自然吸気ガソリンエンジン車の追加は無いと言うが、ハイブリッド車の追加はあるかも知れない。その辺りの情報に筆者は責任が持てない(笑)。

 ハイブリッド車の波で先行した日本、欧州で始まったダウンサイジングターボの波。そのふたつの大きな波が日本のマーケットで激突する。(編集担当:吉田恒)