最後の仕上げまで手を抜かない。そしてそれを大切に使うことを教える建物をつくる──「JAHBnetシンポジウム」

2015年07月18日 19:38

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全国から800名を超える会員が集結して開催された「JAHBnetシンポジウム」

 第16回JAHBnet(ジャーブネット)全国大会で開催された「JAHBnetシンポジウム」は、アキュラホーム執行役員の伊藤圭子氏の司会進行ではじまった。「“匠の技”を現代に活かし、住まいの未来を豊かにする」がテーマである。

 同ネットは、設立当初から“日本の家づくりを変える”とするミッションを掲げ、プロの“つくり手”として創意工夫を凝らすのは当然、そのなかで適正な価格、そして安心・安全な住まいを提供してきた。近年は、住居をつくる側の視点ではなく、住まい手の視点で家づくりを探るために「住みごこち・住みごたえ・住みこなし委員会(3住み委員会)」や働く女性30名で組織する「住み心地のいい家委員会」を組織、同委員会の意見を反映させた商品開発を行なっている。

 シンポジウム講演のために登壇した3名は、日本を代表する数寄屋棟梁の杉本広近氏、左官職人としてカリスマとも言われる久住有生氏、そして建築家で東京大学名誉教授の内田祥哉氏。

 講演冒頭から「数寄屋造りの家に住むと人生が変わる」と発言した杉本氏は、「大工になりたい」と父親に相談したら、「京都へ行きなさい」といわれ、京都・数寄屋大工の第一人者である中村外二棟梁の元で丁稚となる。「中村親方には年2人の丁稚が入る。はじめにやることは運転手だった。そして、5年間丁稚を続けた。2年目に行なった大きな仕事で、九州で50億円ほどの壮大な数寄屋造り個人住宅の建設に参加した。鉄骨で上屋を建てて、その中で家をつくる。これが刺激的だった」

 杉本氏は続ける。「5年間、給金は道具を揃えることに費やし、道具と向き合い、手入れすることで、大工としての姿勢ができた」。一切、遊ばずに、「施主の人生を応援するために建てる。建物が施主の人生を変える」「丁寧に作ることから、真剣に取り組むことで建物に美しさが生まれる」とも。

 左官職人の久住氏は、「家が人を育てる」という。高校3年のときに、父親に「大学に行くぐらいなら、欧州にいってこい」と20万円くれた。スペインでガウディの建築を見て“土”に開眼。「30歳までは毎日“壁塗り”だけだった」という。「初めて取り組んだ壁厚1寸2分の茶室の壁は勉強になった。茶室から学んだことは、伝統的なことだけではない。そこには多彩な表現方法が宿っていた。茶室造りにはそれぞれ部分で専門家・職人が活躍する」と話す。

 一方で東京国立博物館の壁の修復は刺激的だったと述懐する。京都のお茶の店舗「輪違屋」の壁修復も同じだった。「古い建物の壁修復は、職人にとってすごく勉強になる。そうして作った(修復した)ものは自分が死んでしまっても残っている」のだ。「それが凄い」とも。

 現在、「とかく子供が怪我しないような建物をつくるが、“怪我をするかも知れないが”、物を大切にすることを教える建築を、大事に使ってもらえる建物を作ることも必要ではないか?」「職人が作ることで、そこに住む人の人生が変わるんだ」と結んだ。

 「和小屋の知恵とこれからの和構法」と題して基調講演した内田氏。現在の大手ハウスメーカーのプレハブ構造と和小屋を比較しながら、和構法のメリットを説いた。

 プレハブの基本はカーテンウォール工法にあり、オーストラリアを植民地化する際に英国が開発したものだと基本を語り、日本では霞ヶ関ビルの建設でスタートしたという。「プレハブは職人がいない所で建てる建物であり、現場作業の省略がメリット。不便なところ、危険なところでつくる建物」だという。

 現在の一品生産の戸建てプレハブ住宅は、日本だけの特徴。しかし、「家族構成の変化やライフスタイルの変化で住宅のリモデルが必要になる。改修・改造の時代になりプレハブは、なかなか対応が難しい代物だといえる」と内田氏。

 逆に「伝統的な木造日本民家の得意なこととして、外国人が興味を示すのは、柱も動かす増改築。分解組み立てが繰り返せる。解体・移築も珍しくない。和小屋なら寄せ棟屋根が簡単にできる。材料の再利用が容易」だとそのメリットを強調。「施主、大工、棟梁、居住者による試行錯誤の建築がこれまでの和小屋。畳モジュールに乗せた真壁作り」は、リモデルが求められる今後、有望な住宅だというのだ。これからの和構法は剛性のある「床+天井」、水平力を受け持つ「壁」、垂直力を支える「柱」などで構成して、「永く改修・修繕しながら使う(住まう)住居だ」と……。

 前述したふたりの職人について、「美しい数寄屋造りは世界的に評価が高い。若い職人が美しい数寄屋を継承することで今後が楽しみだ。左官はすばらしい技術で、これほど素晴らしい住居の仕上げはない」と語った。

 ふたりの職人の発言に共通するのは、「最後まで手を抜かずに仕上げるのが大事」だということ。

 スローフードが生まれたように、住宅も時代の要請からプレハブから増改築が容易な和構法が盛んになる。施主と工務店が一体となって日本の住宅が建設される。「将来に残る建物は丁寧(大事)に使われた住まい」、そしてそれを子供たちに「教える住居」が大切と結論づけていた。(編集担当:吉田恒)