日本企業による海外での買収・合併(M&A)が加速している。最近では、明治安田生命保険が7月24日、アメリカの中堅生保・スタンコープ・ファイナンシャル・グループの買収を発表した。買収額は49億9700万ドル。日本円にして約6246億円。日本の生保による海外M&Aでは過去最大規模になる。
また、日立製作所<6501>は2月、イタリアの国営航空宇宙・防衛企業グループフィンメカニカ傘下の鉄道関連会社、車両事業会社アンサルドブレダと、同グループが約4割を出資する信号会社アンサルドSTSの2社を買収すると発表した。欧州の鉄道市場では、加ボンバルディア、独シーメンス、仏アルストムという3大企業が圧倒的なシェアを占めているが、今回の買収によって日立も世界最大規模の欧州鉄道市場に大きな足がかりを作ったと注目を集めている。
企業にとって、M&Aの意義はどこにあるのだろうか。
近年、日本企業のグローバル化が進んでいるが、選択肢としては当然、M&Aにこだわる必要はない。現地販売子会社を設立したり、販売代理店を活用したりする方法もある。しかもM&Aを行う際には、文化や経営スタイルの異なる海外企業を経営統合、子会社化するという未知のリスクが伴うことを覚悟しなければならない。それでもなお、M&Aを選択するのはやはり、世界市場に占めるシェアの上昇や新たな販売網の確保、さらには優秀な人材の確保や新技術の獲得、売り手側が長年の経営で培ってきたサービスや経営ノウハウの吸収など、巨額の買収費用やリスクを支払ってもなお、即効性のある大きなメリットが期待できるからである。
今年に入ってから、日本企業に限らずM&Aが活発になっているのが半導体業界だ。1月早々にInfineon Technologies社がInternational Rectifier社を買収したのを皮切りに、3月には、セキュリティー向けチップで好調な伸びを見せるNXP Semiconductors社が、汎用マイクロコントローラー(MCU)と無線通信の技術を大幅に強化する目的でFreescale Semiconductor社を合併することを発表した。極めつけは、6月にIntel社が同社のM&Aでは最高額となる買収金額約167億米ドル(約2兆円)でAltera社を買収することで合意したことだ。Intel社はAltera社の持つFPGAデバイスの技術を獲得することで、今後の大きな成長が見込まれているデータセンター向けとIoT向けのプロセッサーの市場で覇権を獲得するのが目的とみられている。
そんな中、いよいよ日本の半導体企業も動き出した。
日本の半導体大手ローム株式会社<6963>は7月23日付けで、半導体を開発販売するアイルランドのPowervation(パワーベーション)社を約7千万ドル、日本円にして約87億円で買収したことを発表した。Powervation社は、デジタル電源制御LSIの開発と販売を行うファブレス半導体会社で、高精度のリアルタイム自動補正機能を持つシステム電源に関する独自技術を保有している。一方、ロームはIT関連市場、自動車、産業機器市場などのアナログ方式の制御技術を得意としており、電源ICでシェア世界4位に付ける実力者。今回の買収によってデジタル方式の技術も手に入れることで、電源事業でのシェア拡大を目指す。
日本では一般的には、M&Aはあまり良い印象を持たれていないようだが、企業が成長するには必要不可欠な戦略のひとつだ。成功すれば一躍、業界の盟主にのし上がることもできるだろうし、逆に先を越されれば、ライバル企業に足元を救われかねない。特に再編の兆しが見え始めている日本の半導体業界において、ローム社の今回のM&Aの成否が国内の勢力図にも大きく影響を及ぼすことになりそうだ。(編集担当:藤原伊織)