自動車メーカー各社が、“儲かるはず?”のSUVマーケットに新型車を相次ぎ投入する理由

2015年08月29日 20:51

Porsche Cay

2002年に市場投入されたポルシェ・カイエン。綿密なマーケティングから生まれた新世代のSUVだ

 SUV(Sports Utility Vehicle)は、過去1980年代に人気を博したクロスカントリー4WDから派生した、いわゆる洗練された4WDスポーツ車を指しているが、確固とした概念はない。2002年代にポルシェがカイエンを発表、ヒットさせて以来、世界の高級車ブランドが雪崩のようにSUV市場に乗り出した。いまでは、高級車ブランドだけでなく、すべてのメーカーのあらゆるセグメントにSUV(か、SUVもどきのようなクルマ)がラインアップされている。

 ポルシェ・カイエンがヒットした理由は幾つか上げられるが、SUVなのに中身はまさにポルシェ・スポーツだったことが第一に上げられる。正真正銘リアルスポーツだった。それに加えて、ポルシェ911などのスポーツカーのユーザーの多くはクルマ複数所有者で、ポルシェ911やボクスターに匹敵する個性的な高級実用(乗用)車としてレンジローバーやメルセデスGグラスなどを所有していたというマーケティング調査がヒットに直結した。つまり、分かったことは高級スポーツカーの持ち主は、クルマの複数所有が当たり前だったということだ。

 カイエンのヒットを横目で睨んで、メルセデス・ベンツのGLやGLK、BMWのXシリーズ、アウディのQシリーズなど独・御三家は早々にラインアップを完成させた。もちろんトヨタの高級ブランド・レクサスもハイブリッドSUV「RX」や高級「LX」で参入する。その流れに追随する格好で、世界の高級ブランドが本気でSUVを開発する。そしてロールスロイスがカリナを、マセラティがレヴァンテを、ジャガーがF-Paceを、というように──超高級ブランドまでもがSUV市場に触手を伸ばす。

 一方で超高級SUV人気とは別にコンパクトSUVにも世界的に注目が集まっている。小さなディーゼルエンジンで注目されるマツダCX-3やハイブリッド車のホンダ・ヴェゼル、日産ジューク、輸入車でもルノー・キャプチャーやメルセデスGLA、アウディQ3などの人気は高い。直近ではフォルクスワーゲン・ゴルフにもクロスオーバーSUVがラインアップされた。

 また、トヨタ自動車が2016年に新型プリウスをベースにしたハイブリッドSUV(噂では「CH-R」という名称だとか)を発売するほか、今秋にはフィアットやジープ、ダイハツも新型を売り出す。SUVはデザインや走行性能が支持され、なかで小さなセグメントのコンパクトSUVが燃費や低価格で若いユーザーに人気がある。このクラスの小型SUVは同クラスのコンパクトカーとプラットフォームを共用しコストを下げやすい。おおむね200万円台前半で購入できるモデルが多く、軽量で燃費もよく、スタイリングと走りの良さ、価格の安さで20~30歳代の支持を集めている。

 トヨタはCH-Rで、今秋登場する第四世代のハイブリッド車「プリウス」とプラットフォームやパワートレーンを共用する全長4200mmほどのコンパクトなSUVとなる。プリウスと同じハイブリッド車に加えて、スポーツ仕様として完全な4WD車には、1.2リッターのダウンサイジングターボチャージャー付きエンジンをそろえる方針。

 トヨタはSUVで「RAV4」や「ハリアー」「ランドクルーザー」シリーズなどを販売しているが、コンパクトSUVはラインアップしていなかった。新型「CH-R」で燃費と走りの双方を市場にアピールする。

 盛んにティーザーキャンペーンを仕掛けているダイハツは、軽自動車のSUV「キャスト」を発売する。スズキが昨年発売した軽のSUV「ハスラー」が、想定外の売れ行きを示しており、ダイハツは新型「キャスト」で対抗するというわけだ。

 輸入車でも新型車投入が相次ぐ。欧米自動車大手フィアット&クライスラー・9月にジープブランドから「レネゲード」を投入する。10月には兄弟車をフィアットブランド「500X(チンクエチェントX)」を発売する。両車ともクライスラーとフィアットの共同開発でプラットフォームは共通だ。いずれも最低価格は200万円台に抑え、ホンダ・ヴェゼルなどの日本車に対抗する構えだという。

 SUVという概念には、確固としたものはない、と冒頭で記した。が、基本的に北米でSUVと呼称し始めた1995年ごろには、条件として「背が高く、4WDで悪路走破性は非常に高く、ステーションワゴン風にも使えるRV(Recreation Vehicle)のなかでも洗練されたクルマ」だった。が、しかし、現在に至って「必ずしも4WDである必要はなく、クロカン四駆のような無骨なクルマではない」のが「現代のSUV」で、悪路(ラフロード)などには決して踏み込まず、都会派の洗練されたクルマが「SUV」のようなである。それぞれの会社の大衆車プラットフォームとパワートレーンを流用するため、開発コストは低廉で済ませられる。メーカーにとっても極めて美味しいセグメントなのだ。9月に開催される独フランクフルト・モーターショーや10月の東京モーターショーでは、新型SUVが各社ブースを埋めることは間違いない。(編集担当:吉田恒)