教科書検定をめぐる現金授受や懇親会という接待。贈る神経もさることながら、受け取る校長らの認識・倫理観の低さに呆れるほかない。
文部科学省によると、贈ったのは三省堂。来年度から中学で使用する英語教科書の検定期間中だった昨年8月に全国の公立小中学校の校長ら11府県の11人を都内のホテルに招待し、文部科学省で検定中の教科書を見せ、感想を聞いた後、全員に謝礼金として現金5万円入り封筒を渡したという。
働きかけた三省堂がもっぱら問題視されるが、むしろ、業者の働きかけに謝礼や接待を受け校長らの倫理観に危うさを感じる。
三省堂の「編集会議」に、交通費・宿泊費・懇親会(食事)・謝礼(5万円)まで用意され出向く感覚はいわば非常識。この編集会議の実態を詳細に文部科学省は検証し、調査結果を公表する必要がある。三省堂がどの基準で11人を選定したのかも調べる必要がある。
教科書検定の公平・中立への信頼を大きく揺るがすのみでなく、こうした危険な会議に万一、誤った認識、誤解があって出席してしまったと「善意」に解釈したとしても、検定対象教科書を見せられた段階、あるいは、会議後に現金入り封筒を渡された段階で、拒否できる「教育者としての自らの立場を踏まえた常識・判断能力」がなければ、教育界に相応しい人材とはいえない。
そもそも、文部科学省の教科用図書検定規則実施細則では検定終了まで申請中の教科書は外部に見せてはならないことになっている。教科書協会も採択関係者への金銭提供を禁じている。当然のことだが、これらが見事に破られた。招待された校長らは教育界に長く身を置きながら、こうしたことを知らなかったのか、教科書採択に助言できる調査員になった人物も11人の中に4人いたとの報道もある。徹底調査すべきだ。
また、過去に6回、こうした会議がもたれていたことを三省堂は明らかにした。その会議に参加してきた校長らはどうであったのか。謝礼金を後に返した校長もいるようだが、表面化したからなのか、その場で返却しなかったのはなぜか、甚だ疑問。
今回の案件は英語教科書だった。歴史や倫理の教科書でこうした類似の事案はなかったのか。教壇に立つ者、教育業界に身を置く者は、より高潔で高いモラルを求められる。そうでなければ未来の日本を担う人材育成の場にいて頂きたくはない。
今回の案件、そういう意味でも『徹底解明』し、『二度と疑念を招くような行為が発生しないよう』文部科学省と編集会議に出席した校長らがいる府県の教育委員会には毅然とした態度での措置を求めたい。
三省堂の北口克彦代表取締役社長は30日「昨年8月に弊社が開催した編集会議は、よりよい教科書づくりのために先生方のご意見をお聞かせいただく目的で開催したが、検定中の申請図書を披露したりするなど、会議の設定自体が誤っていたと深く反省している」と釈明した。
そのうえで「教科書業界全体の信頼を大きく損なうことにもつながりかねず、事態の重さ、責任の重大さを痛感している。今後は、文部科学省からいただいた『指導』を遵守し、教科書編集・営業のあり方をコンプライアンスの観点から徹底的に見直す所存。みなさまには多大なご迷惑をおかけしたこと、重ねてお詫び申し上げます」とお詫びを発表した。
教科書採択は各教育委員会が教員らの意見も踏まえて行う。業者も教育者も教育効果を高めるための情報交換は行うべきだが、『常にクリーンな距離を置くことは鉄則』だ。子どもたちにモラルを教える立場の教諭がそうした判断能力を疑われるような行為は絶対にすべきでない。(編集担当:森高龍二)