統合失調症をはじめとする急性期の精神障害の治療は、薬物療法が基本とされている。機能の異常を調整し、症状を抑えるために薬が使われているのだ。ところが、「オープンダイアローグ(開かれた対話)」という治療法は薬をほとんど使わず、とにかく会話をして回復させるという。この治療法はフィンランドの西ラップランド地方にあるケロプダス病院のファミリー・セラピストを中心に、1980年代から実践されている。
その治療方法は至ってシンプルだ。患者やその家族から電話を受けると、すぐに治療チームを組んで自宅に訪問し、ミーティングを行う。参加者は患者本人とその家族、友人、医師、看護師、担当医など、患者に関わる重要人物であれば誰でもいいのだそうだ。ミーティングは治療の核心であり、1回につき長くて90分ほど行われる。状況に応じて毎日実施されることもあるという。
重要なのは「参加者全員が発言すること」で、妄想や幻聴を含めて患者のどんな言葉にも耳を傾け、誰かが必ず応答しなくてはならない。事前の計画は立てずにスタッフによる会議も行われず、記録もつけないという。ただひたすら会話に集中するというのだ。
患者に対して「説得」はしない。専門家同士が本人の前で本人について語る「リフレクティング」という技法によって、本人の言葉を引き出す。精神科医・家族療法士のカリ・バルタネンさんは「薬も否定しないが大量に使わない」としている。
有効性については、90年代に治療を受けた患者の追跡調査によると、2年後に症状が残っている割合、就労率、再発率で良好な数字が報告され、86%が回復したとのデータもあるが、症例数が少ないため科学的な検証が足りないとの指摘もある。
しかし、現在広く行われている治療法についても、薬物療法だけでなく、患者本人および家族への心理社会的療法を併せて実施することが良好な予後に不可欠だと判明している。日本国内においてもオープンダイアローグに期待する精神科医が少なくないという。この治療法が広がれば、精神科医療が大きく変わるであろう。(編集担当:久保田雄城)