九大が癌細胞の浸潤や転移に関わる細胞運動の仕組みを解明 新たな治療法の開発に期待

2016年03月20日 14:08

 ヒトの悪性腫瘍の 90%以上は上皮細胞という細胞同士が接着する細胞に由来するという。上皮細胞が悪性腫瘍になると互いの細胞接着が壊れて、高い運動性を獲得し他の臓器へ転移する。癌細胞が高い運動性を示す原因として、癌細胞はブレブ(Bleb)と呼ばれる細胞膜の突出を使った移動方法を利用していることが近年の研究で明らかになった。

 ヒトの体を構成している細胞を取り囲む細胞膜は、恒常的にアクチン細胞骨格と呼ばれる線維状のタンパク質によって裏打ちされているが、ブレブを形成している癌細胞では、何らかの理由によりアクチン細胞骨格が細胞膜から離れて細胞膜が突出し、細胞外マトリックスと呼ばれる細胞外のタンパク質の網目の中をかいくぐるようにして動き回る。このようなブレブの形成に関する分子機構については、これまであまり詳細なメカニズムの解明が行われていなかった。

 このような中、九州大学大学院理学研究院の池ノ内順一准教授らの研究グループは、ブレブ(Bleb)の形成に関わる分子メカニズムを明らかにすることに成功した。

 研究グループは、ヒト大腸癌由来培養上皮細胞 DLD-1 細胞を細胞外マトリックス上に播種したときに、ブレブが活発に形成されることを見出した。この実験系を用いて、2008 年にノーベル化学賞を受賞された下村脩博士によって発見された緑色蛍光タンパク質(GFP)を様々な遺伝子と融合し、ブレブに特異的に集積する遺伝子の探索とその機能解析を行った。

 実験の結果、ブレブが拡張する時期には、Rnd3 と呼ばれる低分子量 G タンパク質が重要な働きをすること、逆にブレブが退縮する時期には、別の低分子量 G タンパク質の RhoA が重要な働きをすることがわかった。Rnd3 は先行研究によって、p190RhoGAPと呼ばれる RhoA の働きを抑える分子を活性化することが知られている。

 逆に RhoA は ROCK と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素(を活性化し、ROCK は Rnd3 をリン酸化することによってその機能を低下させることが知られている。これらの知見を纏めると、ブレブの拡張期には Rnd3-p190RhoGAP 経路が優位となり RhoA の活性化を抑えているのに対し、ブレブの退縮期には RhoA-ROCK 経路が優位となり Rnd3の活性化を抑えています。Rnd3 と RhoA が交互に優位になることによって、持続的な細胞運動に必要なブレブの形成と退縮のサイクルが成り立っていることを初めて明らかにした。

 さらに RhoA は、Ezrin と Eps8 というタンパク質を活性化することにより、突出した細胞膜にアクチン細胞骨格を再び構築させることでブレブの退縮を促すことがわかったという。実際に、ブレブの形成退縮に関わる遺伝子をノックアウトした DLD1 細胞では細胞の移動能が顕著に低下することを見出したという。

 今回のようなブレブの形成メカニズムの解明は、癌細胞の浸潤や転移を抑制する新たな治療法の開発に繋がることが期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)