1000億円市場、「スマイルケア食」とは

2016年03月27日 19:29

 「介護離職ゼロ」を目指す安倍内閣だが、その受け皿が問題だ。課題のひとつとして施設や自宅で高齢者が食べる「介護食」がある。農林水産省では2015年11月にこれまで「介護食品」と呼ばれてきたものの範囲を、噛むこと・飲み込むことが難しい人の食品だけではなく、低栄養の予防につながる食品、日々の生活をより快適にする食品という広い領域として捉え直した「新しい介護食品」として「スマイルケア食」という愛称を決め、普及を図っている。

 概念を広げた愛称を決めたとしても、やはり介護食の対象は食に難のある高齢者に変わりはない。咀嚼力と嚥下力に合わせて、普通食、ソフト食、ミキサー食、ゼリー食などが用意されている。「最後まで口から食べたい」と希望している患者、高齢者は多い。介護を支える家族も「最後まで口から食べさせたい。食べる楽しみを続けさせたい」と願っている。それは自宅であっても病院やサービス付き高齢者住宅、老人ホームであっても同じことだ。しかし、現状はというと、在宅介護を受ける高齢者の6割以上は低栄養傾向にあるという農林水産省の調査結果もあり、理想通りの社会は程遠いが、民間は積極的に動いている。
 
 1月下旬、東京ビッグサイトで「高齢者食・介護食の専門展示会&セミナーメディケアフーズ展」が開かれ、1万4000人ほどの栄養士や介護業界関係者が訪れた。介護食の市場規模は1000億円以上とも言われるだけに、注目度は高い。介護施設では人手不足に悩んでいるために調理の時短につながる冷凍加工食品が注目を浴びていた。

 施設ばかりではなく、小売りの動きもある。ファミリーマートでは、現在、病院内や病院近隣を中心に14店で「メディカルフーズ(療養食)」を扱っており、2017年度までに200店まで拡大する予定という。専用の売場を設置し、在宅療養者や地域住民にもわかりやすいように「スマイルケア食」をデザインしたボードなどを掲示し周知に努めたいとしている。

 高齢者にとって口から食べるということは、栄養補給以上の意味があるという。生きているという実感が得られるからだ。ある介護士に聞いた話を思い出した。末期がんで点滴による栄養補給を受けていた高齢男性が「死ぬ前にもう一度食べたい」と訴え、歯科医や栄養士の力も借り、何とかスプーンで口から食べられるようになった。男性は、満足したかのようにその数日後に亡くなったという。高齢者にとっての食の大切さを痛感した。(編集担当:城西泰)