【食品スーパー業界の2016年2月期決算】小売業で最も元気な業態になりつつある

2016年04月15日 09:06

 ■食品スーパーは「高齢化社会の勝ち組」?

 食品スーパー業界主要各社の2016年2月期本決算がほぼ出揃った。

 地元密着型の中・小型の食品スーパーは、大手流通グループのGMS(総合小売店舗)の苦境をよそに「高齢化社会の勝ち組」と言われることがある。かつて食べ盛りの子どもがいた頃は週1回程度、クルマで肉や魚や野菜のような生鮮食料品をGMSまでまとめて買いに行き、大型冷蔵庫にためていたのが、子どもが独立して夫婦だけの高齢世帯になると、近所の食品スーパーまで週に何度も通うようになってくる。歳を重ねると生鮮食料品の購入先は、遠くのGMSから近くの食品スーパーへのシフトが起きる。食品スーパーが近所になければ、コンビニや宅配サービスへのシフトが起きる場合もあるだろう。

 厚生労働省の試算では、2015年に1221万世帯だった65歳以上の夫婦のみ世帯、単独世帯の合計は、20年後の2035年には1387万世帯へ13.6%増加し、全世帯に占める割合は23.1%から28.0%にアップする見込み。それだけ食品スーパーの需要見通しは明るい、と言える。

 日本スーパーマーケット協会など3業界団体が加盟275社のデータを集計した「スーパーマーケット販売統計調査(速報)」によると、2015年3月から2016年2月までの間、全国的にみて既存店総売上高が前年同月比でマイナスだったのは、前年3月が消費増税前の駆け込み需要で+6.9%という空前の伸びだったおかげで反動減が著しかった2015年3月(-4.4%)だけ。翌月の4月以降は2016年2月まで11ヵ月連続でプラスを維持し続けている。これは、コンビニの既存店売上高と全く同じパターンである。

 2015年2月期は関東や中部が良くて北海道・東北が悪いなどエリアごとのばらつきが大きかったが、2016年2月期のデータではその差は縮まっている。大手食品スーパーの業績を見ても地域差は小さくなっており、全体的にみて増収増益が多くなった。これは、地域限定のプレミアム付き商品券で消費を刺激するようなアベノミクスの「地方創生」政策がその効果を発揮しはじめたというよりは、消費増税後の消費需要の落ち込みからの回復が大都市圏に比べて地方では鈍く、遅れていたのが、1年経過してようやくその立ち直りが数字にあらわれ始めた、と言ったほうが正確だろう。

 ■首都圏を中心に前期は2ケタ増益が続出

 概して言えば大都市圏、特に首都圏の大手食品スーパーの業績には2ケタ増益が並び、その好調さが業界全体を引っ張るという構図になっている。

 首都圏に店舗網を持つ食品スーパーは、いなげや<8182>は3月期決算だが、通期見通しは営業収益5.7%増、営業利益1.4%増、当期純利益19.0%増。新規出店の他、店舗改装で活性化した既存店売上高が伸びる。

 昨年3月1日にカスミ、マックスバリュ関東、マルエツが経営統合して発足したイオン系のユナイテッドスーパーHD<3222>の初年度業績は、営業収益6637億円、営業利益140億円、当期純利益53億円。営業収益、営業利益は当初の会社予想を上回った。減損損失27億円を特別損失に計上して最終利益は抑えられたが、配当は14円。生鮮食品、総菜を強化して既存店売上高が堅調で、商品や資材の共同調達の効果が出た。

 埼玉県中心に店舗展開するベルク<9974>は営業収益12.4%増、営業利益15.5%増、当期純利益17.4%増の2ケタ増収増益と好調。食品スーパー業界でも先端をゆく店舗の効率化で客数、客単価、既存店売上高とも伸び、高収益の体質が定着している。

 東武ストア<8274>は売上高2.5%減だが営業利益は10.1%増。当期純利益は約2.7倍の172.8%増という減収、大幅増益。営業利益は2ケタ増益が続き、最終利益は減益からV字回復を果たした。

 関西が本拠の食品スーパーだが首都圏店舗も多いライフコーポレーション<8194>は営業収益7.5%増、営業利益18.6%増、当期純利益49.7%増。2期連続で最終利益が約1.5倍、過去最高益更新と好調で、5円増配。暖冬の影響で営業収益は計画を下回ったが、PB商品の販売好調に加え不採算店舗の閉鎖、店舗の改装を進めて収益力が高まった。

 近畿圏中心のオークワ<8217>は営業収益は1.5%減、営業利益0.4%減で減収減益だったが減益幅が大きく圧縮し、当期純利益は前期の4700万円から8億600万円に増えた。不振だった店舗の売上が回復し、減損損失による特別損失計上額が想定よりも少なかった。

 地方の食品スーパーもおおむね業績が回復を見せ、全国的に「食品スーパーは好調業種」と言えるようになってきた。

 9月に函館地区のダイエー、10月に十勝地区のいちまるのスーパー事業を承継し21店舗が加わった北海道のマックスバリュ北海道<7465>は、営業収益13.5%増、営業利益23.7%減、当期純利益22.1%増で過去最高益更新。事業承継は増収効果をもたらしたが、その経費負担が営業利益を押し下げていた。

 中国・四国地方の天満屋ストア<9846>は営業収益0.4%減で前期よりも減収幅圧縮、営業利益は15.6%増、当期純利益は38.6%増で増益幅は圧縮。店舗閉鎖で減収が続いたが、固定費圧縮で2ケタ増益を確保した。

 西日本一帯に「イズミ」「ゆめマート」など食品スーパーを展開するイズミ<8273>は福岡県北九州市のスーパー大栄、広島県のユアーズを買収した効果が出て営業収益15.4%増の大幅増収。営業利益は5.2%増、当期純利益は前期の減益から一転して8.1%増で、ともに過去最高益更新。既存店売上高が伸び、買収先との共同仕入れで原価率が下がった効果が出ている。13円増配。

 イズミと同じく広島が本拠のマックスバリュ西日本<8287>は営業収益2.3%増、営業利益43.3%増、当期純利益52.5%増で、前期の最終減益から最終2ケタ増益に転じた。

 九州のマックスバリュ九州<3171>は売上高8.9%増、営業利益は50.2%増、当期純利益は413.4%増(5.13倍)で、増収幅を拡大して利益は前期の大幅減益からのV字回復を遂げている。

 
 ■食品スーパーがGMSにとって代わる時代か

 食品スーパー業界の2017年2月期の業績見通しは、首都圏のユナイテッドスーパーHDは営業収益4.9%増、営業利益2.0%増、当期純利益8.8%増を見込む。配当予想は14円で前期から据え置き。ベルクは営業収益3.3%増、営業利益2.4%増、当期純利益10.2%増と増収増益が続く見込み。東武ストアは売上高2.8%増、営業利益9.6%減、当期純利益28.4%減と増収減益を見込む。

 ライフコーポレーションは今期から連結決算を開始し、その営業収益は6600億円、営業利益は127億円、当期純利益は75億円を見込む。単体決算の見通しは営業収益4.6%増、営業利益2.9%増、当期純利益1.0%増。イートインコーナーの拡充などで来店客数を伸ばす方針。オークワは営業収益1.8%増、営業利益35.3%増、当期純利益67.5%増と増収、大幅増益を見込んでいる。

 地方の食品スーパーは、マックスバリュ北海道は既存店の改装効果、コストの圧縮で営業収益13.9%増、営業利益12.8%増を見込むが、前期に計上した事業承継による繰延税金資産が計上されない見通しで、当期純利益は23.5%減。

 天満屋ストアは店舗閉鎖が一段落するため営業収益1.0%増で増収に転じ、営業利益2.9%増、当期純利益は89.3%増で大幅最終増益を見込んでいる。イズミは営業収益8.6%増、営業利益8.7%増。当期純利益は12.4%増の2ケタ増益を見込んでいる。若年世帯向けに値ごろ感を訴求して購買意欲を高める方針という。

 マックスバリュ西日本は営業収益1.4%増、営業利益2.2%増、当期純利益3.9%増の増収増益を見込む。マックスバリュ九州は売上高3.1%増、営業利益6.2%増だが、前期は約5倍だった当期純利益は24.1%減に落ち着く。

 小売業で一番元気な業態はどこか? 数年前はコンビニの派手な出店競争がクローズアップされていたが、昨年あたりからは業績好調な食品スーパーがそれに代わりつつある。高齢化社会という追い風もあるが、デフレ経済が長く続き、さらに消費増税が追い討ちをかける中、生き残りをかけて業務改革、コスト削減、店舗リストラに努め、必要とあれば共同仕入れのような業務提携や、合併、買収、経営統合も辞さないような真剣な経営努力を行ってきた成果が、ここにきて業績の数字に現れはじめている、と言っていいだろう。

 それを後追いするかのように、大手流通グループではいま、斜陽のGMSを食品スーパーを核店舗に家電やファッション、家具などの専門店モールと複合した施設に再編成するようなリニューアルが進められている。かつて、「流通革命の旗手」と呼ばれたダイエーやイトーヨーカ堂などGMSをお手本にチェーンストアのオペレーションを構築してきた食品スーパー業界は、半世紀前後の歳月を経て、逆にGMSにお手本を示し、それにとって代わるような存在になっている。(編集担当:寺尾淳)