ドローンの技術が急速に進歩し、空撮や測量、インフラ点検などに加えて、様々な物資を運ぶ配送サービスも始まろうとしている。しかし、ドローンと地上局との遠隔制御に使われる無線通信は、傍受や干渉、妨害の影響を受けやすく、安全性に課題がある。現状では、標準的な暗号化すら行われていないケースが多く、ドローンの制御通信における情報セキュリティ対策は十分ではない。そこで、乗っ取りや情報漏えいを完全に防御したドローンと地上局間の制御通信の安全性を確立することが急務となっているという。
今回、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、プロドローンと共同で、小型無人飛行機ドローンを使って学校図書室の本を別の学校へ配送する図書配送システムの実証実験に成功した。
実証実験は、国家戦略特別区域(地方創生・近未来特区)である秋田県仙北市において実施され、ドローンに約1kgの図書を積載し、高度約50m、距離約1.2kmの自動航行に成功した。また、ドローン、地上局、図書室端末、配送管理端末、データサーバで構成されるシステムの通信に共通鍵暗号とワンタイムパッド暗号を適用することにより、制御の乗っ取りや情報漏えいを完全に防御した環境で配送サービスを実施できることを示した。
具体的には、仙北市で、ドローン、地上局、図書室端末、配送管理端末、データサーバで構成されるシステムの通信に、事前に配布した共通鍵による共通鍵暗号(AES方式)とワンタイムパッド暗号を適用した。このシステムでは、各機器間の通信(図書室端末と配送管理端末間、配送管理端末とドローン制御の地上局間、地上局とドローン間)がすべて暗号化されている。
市内の西明寺中学校から図書配送リクエストを受信した西明寺小学校では、約1kgの図書をドローンへ積み込むとともに、端末からドローン制御地上局に対して配送先の情報を送信する。図書を積載したドローンをオペレータの操縦により、高度約50mまで上昇させた後、あらかじめ設定された直線距離で約1.2kmのコースを自動航行で飛行させ、再びオペレータにより、西明寺中学校校庭の設定した場所へ着陸させることに成功した。
特に今回、ドローンと地上局間の暗号通信は、理論上最強の安全性を持つワンタイムパッド暗号により守られているという。また、小型で軽量のワンタイムパッド暗号化装置を開発し、ドローンへ実装した。これにより、制御通信の乗っ取りや情報漏えいを完全に防御した環境で、ドローンによる配送サービスを実施できることを実証した。
今後も、仙北市での実証実験に継続して参画し、プロドローンと共同で、運用技術やノウハウを更に蓄積していくという。図書配送システムの実用化に向けては、今回、専門のオペレータが担当したドローン離着陸操作の自動化を実現し、完全自動航行での運用を目指す。また、複数拠点を結ぶネットワークの広域化にも取り組んでいく。将来的には、薬の配送など個人情報の保護が求められる輸送、物流関連用途や農業分野での計測、観測関連用途、山岳遭難救助や火山監視等の災害対応用途、更には重要インフラ施設管理等の高機密用途への活用も目指す方針だ。(編集担当:慶尾六郎)