2016年は年初から世界の金融市場で動揺が続き、中国経済の減速や米国の政策金利引き上げの、日本経済への影響も懸念される。また、近年IPO企業の上場後の業績下方修正や不祥事が相次いだため、IPOの監査・審査が厳格化の方向に向かうなどIPOを取り巻く環境も変化しつつある。そのようななか、帝国データバンクでは、保有する企業情報のなかからIPOの意向を持つとみられる企業を抽出し、アンケート調査を実施した。
まず、IPOの意向を持つ企業属性を業種別に見ると、「サービス業」が48.7%(151社)と約半数を占めた。なかでも「情報サービス業」の構成比が高く、全体の22.3%(69社)を占めている。スマートフォン・タブレット端末向けのサービス・アプリ開発運営企業を中心に、IT系企業のIPO意向が引き続き高いとしている。
本社所在地域別では、「関東」が56.8%(176社)、なかでも「東京都」が全体の46.5%(144社)を占めた。次いで「近畿」が15.5%(48社)、「九州・沖縄」が 7.7%(24社)となっている。
IPOの目的については、「知名度や信用度の向上」と回答した企業が71.6%(222社)と最も多かった。次いで「優秀な人材の確保」(69.0%、214社)、「資金調達力の向上」(53.9%、167社)という回答が多かった。
IPO本来の機能である「資金調達力の向上」を挙げた企業の構成比は、前回調査に比べ 1.3ポイント増加した。世界の金融市場の動揺や円高リスクの高まりにより、国内景気の見通しには不透明感が漂う。しかし、日銀がマイナス金利導入を決定したことから、金融機関の資金が株式市場に供給され、IPO による資金調達環境が改善することが期待されるとしている。
国内株式市場の活況
また、IPOを予定する市場では、「東証マザーズ」の構成比が54.2%(168社)と突出している。次いで「東証 JASDAQ スタンダード」が19.4%(60社)、「東証 2 部」が 5.2%(16 社)を占めた。地方取引所の新興市場よりも東証2部への上場予定の方が多く、東証1部への直接上場を予定している企業も2.9%(9社)あった。
IPO意向企業が東京に偏在していることに加え、東京証券取引所が地方企業のIPO支援を積極的に行っていること、マザーズを市場第1部への上場を目指す成長企業向けの市場と定義し、東証1部、2部へのステップアップ支援に力を入れていることも、こうした傾向の要因になっていると考えられるとしている。
IPO 意向が「ある」と回答した企業の数は310社と、前年調査の359社から49社減少した。国内景気はしばらく一進一退で推移すると見通され、IPO意向企業の姿勢もこれまでよりやや慎重なものとなっている。一方で、企業の人手不足感が強まるなか、IPOを資金調達手段のみならず、次なる成長に向けた人材獲得や、社員の士気向上の手段と捉える成長企業の割合も増えているとみられるという。2016年の年間IPO件数は、前年をやや上回る100社前後と予想される。2020年の東京五輪開催までは好材料も多く、それらがIPO市場を下支えすることが期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)