4月28日、証券業界主要5社の2016年3月期本決算が出揃った。概して言えば、総合証券の委託売買手数料収入は2014年1月の投資増税の影響をひきずりながらも2015年8月頃まで前年同期比でまずまずの実績だったが、8月末からの世界同時株安で急変。その後は期末の3月までほとんど立ち直りをみせることなく減収を余儀なくされている。それは投資信託の販売収入も同様で、自己売買もふるわなかった。野村HD、大和証券Gとも、新規上場にからんだ引受・売出やM&A仲介などの収益ではカバーできなかったが、預かり資産の運用で収益をあげるアセットマネジメントに強い野村HDは、この部門で増収増益を続けている。
個人投資家の株式や投信の売買に依存する度合いが高いネット証券会社は、カブドットコム証券、松井証券、マネックスGとも年間の委託売買手数料収入が前期の減収から増収に転じている。だが、カブドットコム証券は増益、松井証券は減益、マネックスGは税引前利益が減益で当期純利益が増益と、利益面での業績はまちまちだった。
なお、マーケットの動向に大きく左右される2017年3月期の業績見通しは、証券業界の慣例で各社とも非公表となっている。
■野村HDは大幅減収減益ネット証券はまちまちの業績
2016年3月期の実績は、野村HD<8604>は収益合計10.7%減、収益合計(金融費用控除後)13.0%減、税引前当期純利益52.4%減、最終当期純利益41.5%減という大幅な減収減益決算。年間配当は前期比6円減の13円だった。株式や投信の売買は2015年8月頃までは堅調だったが、世界的な株安で急変して減少した。ヨーロッパを中心に欧米での事業再編に伴う人員削減を実施するが、その退職関連費用160億円弱と、株価下落に伴う有価証券評価損を1~3月期に計上して四半期決算が最終赤字に転落。それが通期業績に反映している。
営業部門は、ビジネスモデル変革が功を奏してストック収入は引き続き増加したものの減収減益。アセット・マネジメント部門は、ETFや地域金融機関向け投資信託等への資金流入が続き、運用資産残高が増えて増収増益。投資銀行業務など法人向けホールセール部門はエクイティ、インベストメント・バンキングは健闘してもフィクスト・インカムが苦戦し、部門全体では減収減益だった。
大和証券G<8601>は営業収益0.9%減、純営業収益3.3%減、営業利益12.0%減、経常利益10.5%減、当期純利益21.3%減の減収、2ケタ減益。営業収益は前期の増収から減収に変わった。最終利益は2期前の過去最高益から31%も減っている。年間配当は1円減配して29円で、2期前から5円減った。
2015年8月以後の株安局面で個人向けリテール部門の株式、投信の売買手数料収入が低迷し、その経常利益は21%減。その中にもラップ契約に関わる投資顧問・取引等管理料が72.5%増など好調な分野はある。法人向けホールセール部門も8%減。アセット・マネジメント部門は7%減。今期はFX取引で最大手のGMOクリックHDと業務提携を結び、リテール部門で巻き返しを図る。
カブドットコム証券<8703>は営業収益は6.6%増、純営業収益は6.8%増、営業利益は4.9%増、経常利益は4.7%増、当期純利益は4.9%増で、前期の営業減益、経常減益からぞれぞれ増益に転換した。営業収益、純営業収益、税引前利益は過去最高を更新。
投資増税の影響で前期14%減だった株式委託手数料は増収を確保し、金融収支、トレーディング損益、投信収益は過去最高で、テレビCM強化で販管費コストが増えても増収増益で着地した。年間配当は12円で、7月1日に1対2の株式分割を実施しているので、記念配8円を含む前期の23円から実質1円の増配。
松井証券<8628>は営業収益0.4%増、純営業収益0.3%増、営業利益1.5%減、経常利益1.7%減、当期純利益5.2%減。昨年夏までは株式市場が活況だったので前期24%減だった委託手数料収入は2%増になった。そのため前期の減収からわずかな増収に転じ、営業利益、経常利益は減益幅が2ケタから1ケタに圧縮したが、金融収支の悪化、投資有価証券売却益の減少により当期純利益は減益幅が0.7ポイント拡大した。それでも年間配当は5円増配している。
マネックスG<8698>は営業収益6.5%増、税引前利益16.6%減、当期利益0.6%増、当期純利益1.7%増で、前期の減収、大幅減益から増収、最終増益に転じている。年間配当は1.4円増配して9.6円。株式や投信の委託手数料収入は前期の減少から増加に転じている。事業整理を進めるアメリカでFX部門のリテール口座を譲渡。証券基幹システムの内製化切り替えに伴う違約金負担の発生を税負担の軽減などでカバーし、最終増益を確保した。(編集担当:寺尾淳)