【電力大手の2016年3月期決算】原発再稼働がままならぬ間に電力小売自由化は、もう始まっている

2016年04月29日 10:36

 4月28日、電力大手3社(東京電力HD<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>の3月期本決算が出揃った。

 電力10社全体では、主力の火力発電の燃料の大半を占めるLNG(液化天然ガス)の価格が下落し燃料費が約4割低下した効果が出て5社が最終増益になり、関西電力は値上げが、九州電力<9508>は川内原発1号機、2号機の再稼働が寄与して、それぞれ5期ぶりに最終黒字化。九州電力は復配を果たした。一方、火力、水力発電所の減損損失を計上した東京電力HD、中国電力<9504>、沖縄電力<9511>は減収、最終減益になった。

 ■値上げで契約者に負担を転嫁し関西電力は最終黒字化を達成

 2016年3月期の実績は、東京電力HDは売上高10.8%減、営業利益17.6%増、経常利益56.7%増、当期純利益は68.8%減だった。増収増益だった2015年3月期から一転して減収、大幅最終減益。年間配当は無配継続で、2012年3月期から5期連続になる。

 火力発電燃料のLNG(液化天然ガス)や重油の価格が低下し、燃料費は2015年3月期と比べて1兆円を超える減少をみせた。ただし燃料費調整制度で電気料金が連動して引き下げられたために売上高は減収。それでも燃料費の低下と電気料金引き下げの間には数カ月のタイムラグが出るため、決算ではコスト低減の効果が出て営業利益、経常利益は増益になった。当期純利益の大幅減益は、電力小売自由化に備えた持株会社制移行に伴って、老朽化した一部の火力、水力発電所の減損損失(特別損失)2333億円を計上したことが要因。なお、特別損失の原子力損害賠償費6786億円は、特別利益の原子力損害賠償・廃炉等支援機構資金交付金6997億円と、ほぼ見合っている。

 中部電力は売上高8.0%減、営業利益165.9%増(約2.6倍)、経常利益324.6%増(約4.2倍)、当期純利益337.5%増(約4.3倍)と、前年同期比で利益が大きく伸びている。年間配当は15円増配の25円とした。

 浜岡原発は3基とも停止中。暖冬と自動車関連産業の生産減が影響して販売電力量が減少し、燃料費調整による料金引き下げもあり売上高は減収。一方、燃料費の低下と料金引き下げの間のタイムラグ効果に、天候要因による燃料費不要の水力発電所の発電量増加が加わり、利益3項目は大幅増益になった。

 関西電力は売上高は4.7%減だが、営業損益は786億円の赤字から2567億円の黒字に、経常損益は1130億円の赤字から2416億円の黒字に、当期純損益は1483億円の赤字から1408億円の黒字に、それぞれ黒字転化を果たした。しかし年間配当は無配継続。

 燃料安による損益の改善効果が4771億円に達した上に、2015年の6月と10月の2段階に分けて電気料金を値上げした効果も出た。その増収効果は1560億円もあったが、燃料費調整制度による電気料金引き下げ、販売電力量の減少で相殺され、減収を余儀なくされている。

 ■小売自由化で契約者が逃げて、「報復」される恐れあり

 2017年3月期の通期業績見通しは、東京電力HDは2016年3月期に引き続き、全機停止している柏崎刈羽原発の運転計画を示せないため未定。その再稼働のメドは立っていない。年間配当予想は無配の見通し。

 中部電力は売上高8.2%減、営業利益47.4%減、経常利益49.1%減、当期純利益26.4%減の減収減益の見通し。しかし年間配当予想は5円増配して30円を見込んでいる。売上減は燃料費調整額の減少、利益3項目の減少は燃料費の低下と料金引き下げの間のタイムラグの縮小に伴うもの。南海トラフ巨大地震対策の浜岡原発の防波壁は完成したが、再稼働に向けての手続はこれから本格化する。

 関西電力は「原子力プラントの具体的な再稼動時期が見通せないことなどから、現時点では一定の前提を置いて業績を想定することができない」という理由で業績、配当見通しを全て未定とした(前期は無配)。

 その高浜原発3、4号機は今年1~2月に相次いで再稼働を果たしたが、4号機は再稼働3日後にトラブルで緊急停止し、3月9日に大津地裁が3、4号機運転停止の仮処分決定を出したため営業運転中だった3号機も停止した。LNG火力と比較すると原発の発電コストは約25%低く(変動費ベース)、関電の場合、高浜原発2基が再稼働すると1ヵ月あたり100億円の燃料費削減が見込め、値下げすることもできたが、そんなシナリオは狂ってしまった。

 そんな経緯で、電力大手3社は火力発電に全面的に頼る状況が続く。もし今後、LNGなどエネルギー価格が反転して燃料費負担が増えたとしても、電力小売自由化で参入してきた新電力への対抗上、燃料費調整分を超えるような値上げはままならない。下手に値上げすると契約者が新電力に逃げて「報復」される。それが電力小売の地域独占が終わって自由化された、ということである。

 都市ガスや石油大手、通信大手などの新電力は、一戸建ての家に住んで電気を多く使うファミリーのような「おいしい顧客」ばかりさらっていく。それができるような巧妙な料金体系をつくりあげている。電力大手にとってはそんな新電力に対する防衛戦とともに、収益性を低下させる内部のコストとの戦いも当分、続きそうだ。(編集担当:寺尾淳)