広告大手代理店の電通<4324>で働いていた新入社員の高橋まつりさんを長時間労働によって自殺に追い込んだとされる問題で、厚生労働省の「過重労働撲滅特別対策班」通常「かとく」が電通本社に対して10月14日に立ち入り調査を行なった。今後、労働基準法違反容疑での立件を目指している。
かとくは昨年4月に発足。過重労働が疑われる企業を専門に捜査する特別チームで、東京・大阪の両労働局に設置されており、計47名の労働基準監督官から構成されている。従業員に長時間労働を強いる「ブラック企業」問題が深刻化する中、悪質な企業に対する取締りを強化している。過去には靴の量販店であるABCマート(2670)やディスカウント店を展開するドン・キホーテ<7532>などを労働基準法違反で立件してきた実績がある。
これまで長時間労働問題は行政指導にとどまっていたケースが多かったが、経営者の刑事責任を追求する流れに変わってきている。立件までに強制捜査を行い、労務管理者である店長や役員など個人も書類送検されているケースが目立ち、厳しく責任を問う範囲も広がっている。
かとくがターゲットとしている企業は全国展開する大企業。長時間労働問題が横行する中で、企業経営者や労務管理者に対して強制捜査を行い、厳しい処罰を与えるという厚生労働省の意志の表れでもある。塩崎恭久厚労相は「こういうことが起きないように再発防止をどうするか、必要なことはどんなケースでもやっていかなくてはいけない」と述べた。
後を絶たないブラック企業問題。自殺や過労死はセンセーショナルに報道されているが、それは氷山の一角。大企業から中小企業まで、長時間労働が常態化しており、悩まされている人も多いことだろう。「長時間働くことは良いことだ」とされてきた風潮も今は昔。行政の目も世の中の目も長時間労働という「犯罪」に対して厳しいものに変わってきている。かとくが電通にどのような判断を下すのか、そしてかとくによってブラック企業問題はどう変わっていくのか、今後の展開を注目したい。(編集担当:久保田雄城)