安倍政権が目指す国づくりの柱となる「教育」の本質が、現行憲法に「則わない」危険性を有している可能性があるのではないか-。
幼稚園児への教育勅語暗唱に「個別具体的な状況に即し判断されるべきもの」と右も左も判断できない幼児への暗唱を黙認する政府答弁を今月、閣議決定したからだ。
教育勅語は「明治憲法下で天皇への崇敬の念を幼少期から全国民に受けつける効果があげられた」(国史大辞典)。「児童・生徒には教育勅語の暗記・暗写などが課せられたことも珍しくなかった」(同)とある。
民進党の逢坂誠二衆院議員が、大阪市の学校法人森友学園が運営する幼稚園で、園児に「教育勅語」を暗唱させていることに「学校教育法に反していないか」と質問主意書で質したのに答えたもの。
安倍内閣が閣議決定した答弁では「教育勅語は、法律上の効力を喪失した」とするのみで、園児に暗唱させることや教育勅語活用の法令違反該当の有無については「個別具体的な状況に即し判断されるべきもの」と暗唱を黙認、法令違反かどうかも回答を避けた。
安倍晋三総理は主権在君、天皇絶対制の明治憲法下の国づくりをめざすのか。幼稚園や保育所での君が代斉唱推進や今回の答弁書、第2次安倍政権発足から特に色濃くなった愛国心育成、道徳教育への傾注から、そうした懸念さえ生じる。
誰の目にも、自身で判断できない幼児や小学児童に「教育勅語」を朗読させ、暗唱させるのは、教育勅語の本質からみて、憲法違反の疑いがぬぐえない。
教育勅語は明治憲法下において「国民道徳を公定する規範」としての役割を果たしてきた。「教育勅語のどこが悪い。父母に孝行し、夫婦相和しを教えて悪いのか」と教育勅語の中段部分をとりあげての反論があるが、決まって、彼らは前段と後段を語らない。
前段にあるのは、記紀神話に基づく肇国の由来と国体の精華であり、中段結びには「一旦緩急あれば、義勇公に奉し、以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし。かくのごとき、独り朕(天皇)は忠良の臣民たるののみならず・・」といざという時には天皇のためにすべてをささげ「永遠の皇国を支えましょう」という内容だ。
日本共産党の志位和夫委員長がツイッターでつぶやいたように「教育勅語の全ての『徳目』は『いざというときは天皇のために命を投げ出せ』という究極の命題に繋がってくる」。この本質を教育勅語のどこが悪いという人たちは語らない。
教育勅語は1948年に衆院で『教育勅語自体が主権在君の立場』ということなどから、排除決議されている。参院では失効確認された。教育勅語の教育の根本が『天皇中心の国体思想』、『皇国史観』により捉えた君臣関係など、主権在君の明治憲法と一対のもので、主権在民の現行憲法から相容れないものだったからだ。
このことを踏まえても、教育基本法に照らし、こうした教育が幼少期に行われることの是非は国会で徹底議論すべきだ。
国民主権、象徴天皇制、基本的人権の尊重を定める憲法の下で、過去の歴史に教育勅語が存在したこと、覇権主義や皇国史観に大きな役割を果たしたことを、中学以上の生徒らに教えることには意義があるだろう。
自己判断できない幼少期に用いるのは思想教育の危険が高い。これを黙認する閣議決定をした安倍内閣が進める道徳教育とはどのようなものなのか注視する必要がある。
道徳教育に関しては民進党の長妻昭元厚労大臣が今月9日、政府に質問主意書を提出した。「道徳心に成績を付けた通知表が入試で使用される実態に関する質問主意書」だ。道徳には「国を愛する態度」も含まれている。
長妻衆院議員は平成30年4月から全国の小学校で、翌年からは中学校で「道徳科」が正式な「教科」になり、道徳心や愛国心に記述式の成績をつけることになることを指摘したうえで「一人一人の子どもに成績までつけることに強い疑問を持つ。まして、入試に使われてはならない。文科省はHPで『評価は入試で使用しない』などとしているが、私立中学では受験の際に通知表のコピーを保護者らに求める学校が多くみられる。通知表には道徳評価も記されることになっている」として「入試に使用しないことをどう担保するのか」と質した。
また「文科省の有識者会議が通知表のコピーが受験校に提出されている実態を知ったうえで議論したのか」などを質している。政府回答が出た週のコラムで取り上げたい。(編集担当:森高龍二)