安倍内閣の誕生以来、日本の教育に絡んであげられるキーワードが3つある。愛国心を育むとする「公」の精神の浸透拡充、いわゆる、子どもたちに向けた『道徳教育』。次いで、国有地払い下げ問題で浮き彫りになってきた、旧帝国憲法下での皇国史観に基づく『教育勅語』への政府の姿勢。保健体育の授業に新しく加えられた『銃剣道』。
キーワードの3つを並べると「道徳教育」「教育勅語」「銃剣道」。戦後の新憲法と教育基本法の下に生まれ育った筆者にすると、日本史に出てくる戦前・戦中の日本の教育現場を彷彿させる、きな臭さが漂ってくる。教育現場が右傾化の一途を辿っているように感じるのだが、幼稚園や保育所での「君が代」斉唱教育まで文科省や厚労省が進めるとすれば、尚更、懸念が強まる。
政府は教育現場での教育勅語の活用について、質問主意書に対する政府答弁書(閣議決定)で「憲法や教育基本法などに反しないような形で教材として用いることまでは否定されるものではない」と使用について余地を残した。違憲となるかどうか、教育基本法に反するかどうかは、個々のケースによって判断することになる。皇国史観・主権在君に基づく教育勅語は日本の歴史の中で、一時期、時の政権に有為に活用されたことを教えるには良いのかもしれないが、その場合も、物事の判断力を備えた一定年齢以上に限ることが必要だ。幼稚園児に朗読させることを是とする考えは「思想教育」そのものと言わざるを得ず、所管行政機関が是正させるべきであることは当然だ。
道徳教育はどうか。来年4月から小学校で、再来年4月から中学校で、道徳は正式な教科になる。教諭は児童・生徒の道徳心や愛国心などに成績(記述式)を付ける。道徳科では、「国を愛する態度」も含まれる。民進党の長妻昭衆院議員は「私立中学校においては、受験の際にいわゆる通知表のコピーの提出を保護者等に求める学校が多くみられる。通知表には道徳科の評価が記載されることとなっており、今後、道徳科の評価が入試に使用、活用される可能性が高い」と指摘し、この問題にどう取り組むのか、質問主意書で政府見解を質した。
政府は答弁書(閣議決定)で「道徳科における学習状況や道徳性に係る成長の様子の把握については、(中略)調査書に記載せず、入学者選抜の合否判定に活用することのないようにする」とした。また、「私立学校を所管する各都道府県知事等に対し、いわゆる通知表の写しが提出される場合は『道徳科に係る部分が削除される』などの適切な措置がとられるよう周知、徹底を図ってまいりたい」と答弁した。
また「入学者選抜において通知表の写しの提出が求められることに伴う課題について、全国の実態を把握しつつ検討してまいりたい」と入試に反映することがないよう担保策をとる考えを示した。実効性のある担保こそ必要だ。
最後に「銃剣道」。競技者の8割は自衛隊員で、一般に普及しているといえるものではない。なぜ、中学の体育に今、銃剣道を取り入れる必要があるのか。中学新指導要領に盛り込まれた理由が分からない。
銃剣道は突きの一撃で相手を殺傷することを狙い旧日本軍が訓練に用いた「銃剣術」を戦後に安全面を確保した一定ルールの下でスポーツ競技にしたものだ。戦時中の竹槍訓練が槍術でなく、銃剣術だったことから、教育勅語とともに、戦前回帰の安倍政権を浮き彫りにしているとの見方もある。
公益社団法人全日本銃剣道連盟は3月9日にスポーツ庁長官に対し「銃剣道が要領案に記載されず、極めて残念」とし「学習指導要領に明記されないのは銃剣道授業の普及に致命的な影響を与える」などとして、記載するよう要望書を提出。結局、要望に答え、指導要領に追加された。
現在、陸上自衛隊と航空自衛隊では必修科目になっている。一撃で相手を殺傷する銃剣術が原点の競技が柔道や剣道、相撲と同じ「礼に始まり礼に終わる武道」と言えるのか、筆者には趣が異なっているよう思えてならない。国民は子どもたちの心身共に健全な成長のために、教育現場に常に関心を寄せ、教育現場を見続けることが必要だ。(編集担当:森高龍二)