2017年2月にIDC Japan株式会社が発表した市場予測によると、2016年の国内IoT市場の市場規模は5兆270億円。今後、年間平均17.0%の割合で成長し、2021年には11兆237億円に達すると見込んでいる。中でも高い成長が期待されているのは、農業フィールド監視、小売店舗内個別リコメンデーション、院内クリニカルケア、スマートグリッド、テレマティクス保険、ホームオートメーション、スマートアプライアンスなどの用途で、年平均成長率は25%を超えることが予測されている。
現在、IoT市場の多くを占めているのは、産業分野、主に製造業、運輸関連サービスなど、そして官公庁などの公共、公益の各分野だが、新興分野や顕在化する社会課題のニーズに対応したユースケースも立ち上がりつつある。その社会問題の一つとして挙がっているのが「職人技」の衰退だ。
職人の技は大抵、師に弟子入りし、その技を目で見て盗むという徒弟制度が当たり前だった。カルチャー教室などでは手取り足取り教えてもらえることもあるが、通常は師匠の横で何年も下働きをし、その手の動きや視線の動き、力加減や力の方向、配合やタイミングなどを肌で感じ、体験として蓄積していくものだ。しかし、これでは難易度が高く、現代の若者たちはついてこない。また、少子高齢化の進む中、職人や技術者はどんどんと減少している。一人前になる前に、その技術自体が幻となってしまう可能性も高い。
これまでデータ化するのが困難であった職人の「暗黙知」もデータ化することができれば、廃れゆく伝統技術を伝承しやすくなるだけでなく、効率的に職人や技術者を増やすことも可能だ。しかも、経験や知識が無くても、すぐにそれに近い成果をあげることもできるだろう。日本経済にとっても大きな力となることは間違いない。
すでに農業などではベテランの技術を継承すべく、ITやIoTが積極的に取り入れられてきたが、今度は、電子機器メーカーのラトックシステム株式会社とローム株式会社が、酒造りに特化した品温モニタリングシステムを開発して話題になっている。
同社らが開発した、酒造品温モニタリングシステム「もろみ日誌」は、日本酒造りで非常に重要な役割を担う品温管理を蔵内の複数タンクに設置した無線通信機能付きのセンサーで自動計測し、PCやスマホアプリで管理するもの。一定時間毎にセンサーから送信される品温を自動計測しグラフ化したり、品温が警報設定範囲を超えたときに登録されたスマートフォンにアラームで知らせたり、スマホで撮影した状ぼう(もろみの泡の状態)写真をクラウド経由でWindows PC にアップロードする機能を備えている。さらに、日々分析をおこなったボーメ度・アルコール度も手動入力でき、BMD 曲線・A-B 直線の解析により日本酒造りのデータを見える化。熟練の技を次の世代へ継承するため手助けをする。また、同システムは2017 年2 月より京都伏見の齊藤酒造と招徳酒造で実証実験を行っており、現在も運用を継続している。このシステムだけで日本酒造りのすべてを賄えるわけではないが、これまで杜氏に頼りきりだった時間と労力の大きな部分を補うことができ、日本酒造りの効率化が期待できそうだ。
IoT(Internet of Things)とは、「モノのインターネット」とも言われるが、あらゆるものがインターネットに接続されることで、新たな世界を切り拓く仕組みだ。しかし、「物」だけではなく「あらゆるものづくり」とも繋がっていける仕組みなのかもしれない。(編集担当:松田渡)