IoTに新時代到来か。近距離・長距離に対応し、市街地にも強い無線機が登場

2017年06月04日 15:35

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京都大学、ローム、日新システムズは共同で、台湾のNextDrive社の世界最小クラスのIoT用ゲートウェイにWi-SUN FAN対応の無線通信モジュールを搭載することに成功。IoT市場にWi-SUN FAN時代到来か。

 インターネットやスマートフォンなどの普及に伴って、近距離無線通信が一般的に知られるようになった。とくにWi-FiやBluetoothなどは電子機器類の知識に疎い人でも、その名称くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。でも、同じスマホで使うにしても、どうしてWi-FiやBluetoothなど、いろいろな無線通信規格を使い分ける必要があるのだろう。統一できないものなのだろうか。

 統一できない大きな理由の一つは、データ伝送速度と通信距離、消費電力がそれぞれトレードオフの関係にあり、通信規格ごとに得意とする分野や用途が異なるからだ。

 例えば、Wi-Fiは無線LANと呼ばれるもので、2.4GHz帯と5GHz帯の2つの通信帯を使い、100メートル程度の通信距離をもっている。通信速度が速いためインターネット動画も見ることができる。一方、Bluetoothは2.4GHz帯のみで、通信距離も数メートルから数十メートル程度と通信距離が短い。しかし、その分、Wi-Fiよりも機器の接続がシンプルで省電力だ。電池で動くようなミュージックプレイヤーやマウス、キーボードなど小型機器の接続にWi-FiではなくBluetoothが使われているのは、そういう理由からだ。同じく2.4GHz帯を使用するZigBeeは、短時間だけの間欠的な動作が得意で、センサーなどの計測用途で使われることが多い。

 さて、近年注目されているIoT(Internet of Things)向きの通信規格としては、Sub-GHz帯無線が注目されている。Sub-GHz帯無線とは、Wi-FiやBluetoothと異なって、1GHzに満たない周波数帯を使った通信の総称で、昔から使われているものでは、トランシーバや飲食店の呼び出しコール、自動車の鍵などに315MHzや400MHz帯が使われている。そして今、住宅市場などで急速に導入が進んでいるスマートメーターやHEMS(Home Energy Management System)、HAN(Home Area Network)などに利用されているのが920MHz帯だ。

 920MHz帯無線が注目されている理由としては、通信距離やデータ伝送速度の面から、M2M/IoTのセンサネットワークなどに使い勝手が良いといわれているが、具体的には、通信距離でいえば、Wi-Fiの10倍を出すことができる。一方、Sub-GHz帯無線のデメリットとして、Wi-Fiと比べて伝達速度が遅いことが挙げられるが、400MHz帯と比べると10倍以上となっており、比較的高速な通信が可能だ。その920MHz帯無線の中でも、日本発の国際通信規格であるSub-GHz無線通信規格Wi-SUNは、日本国内では家庭内ネットワークでの利用が推進されており、すでに1000万台を超える採用実績を持っている。また、省電力であることから、農業や漁業、防災システムなどへの利用も検討されており、今伸び盛りの通信だ。

 しかし、Sub-GHz帯無線には問題もあった。それは、通信距離に優れる無線通信であるがゆえに、市街地などの建物や人が混み入っている場所では、電波の届かない不感地帯ができてしまうことだった。これはWi-SUNだけでなく、昨年ごろから話題のLPWA(Low Power Wide Area)に含まれるSIGFOXやLoRaWAN など、920MHz帯を使う通信規格に共通する問題だ。

 ところが、Wi-SUNを屋外で利用することを目的としたFAN(Field Area Network)規格に対応する、無線機が登場したことで新たな可能性が生まれた。内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)は昨年、基礎無線機を複数台用いてIPv6によるマルチホップを利用したIP通信の基礎実験に成功。さらに、開発にあたった京都大学、ローム、日新システムズは共同で、台湾のNextDrive社が開発した世界最小クラスのIoT用ゲートウェイにWi-SUN FAN対応の無線通信モジュールを搭載し、NextDrive社よりWi-SUN FAN対応の世界最小IoT用ゲートウェイとして販売を開始する見通しだ。これが普及すれば、大規模な工事などを行わなくても、手軽に安価でスマート防犯やホームセキュリティが実現できる。また、温湿度計測、パーソナル・クラウドなどの分野でも、利用用途が広がりそうだ。
 
 Wi-FiやBluetooth に比べて、まだまだ認知度の低いWi-SUNだが、省電力な上に、Wi-Fiとの緩衝もなく、堅牢なIoTネットワーク構築が可能であるため、近い将来、世界的な認知が一気に高まるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)