FRBは11月の利上げを見送った。FRBは景気回復をうけ利上げの方針を示しているが、この政策転換が回復に水を差す可能性も指摘されている。日本は外需主導の回復局面にあるがFRBの慎重姿勢から当面景気腰折れの心配はないと見込まれる。
FRB(米連邦準備理事会)は11月1日、FOMC(米連邦公開市場委員会)で追加利上げを見送り現状維持を決定した。FOMCは会合後「緩やかな利上げのもとで、経済の改善が持続する」と表明し、正常化への出口戦略が景気回復に水を指さないように配慮していることをにじませた一方、12月には追加利上げを行う強い意向を持っていることも示唆している。
今回の利上げ見送りの背景には、9月に決定された量的緩和の縮小が遂行中であり、この効果がどの程度になるか判断できるまで追加的な引き締め政策を見送るという慎重姿勢をみせたものと見られている。
現在、世界経済は緩やかな景気回復を続けている。米国の株価は最高値を更新し、日本の株価も日経平均で高値を維持しているなど世界的な株高傾向にある。現在の米国の景況を見ると失業率は4.1%程で、これは一般に完全雇用の状態と言われている。マクロ需給ギャップがプラスなのだから理論的には賃金と物価の上昇が起きて当然だ。しかし、賃金の伸びは2%を上回る程度、物価上昇率は前年比1.3%程度と低い位置にある。こうした状況は日本をはじめ米欧など先進国共通の状況で、失業率が低下しているにもかかわらず賃金と物価の十分な上昇がみられない。FRBのイエレン議長はこうした現象を「ミステリー」と呼んでいる。
FRBのインフレ目標は2%であるから米国も日本と同様にインフレ目標には未だ達する見込みがない。こうした点からもFRBが正常化へ舵を切ったとは言え急速な引き締めは行わないであろうと見られている。実際、FRBの利上げは2015年12月から行われているが、この2年間で実施された利上げは4回のみで、1年間に2回程度のペースというのが市場の見込みになっている。
今後、利上げペースが速まった場合、ドル高や長期金利の上昇などで景気回復の腰折れ、株価の下落などのリスクも指摘されてはいる。しかし、現況においてFRBの出口戦略は極めて慎重な態度を見せており、急速な引き締めによる景気減速等のリスクを警戒する必要はないというのが市場の見方のようである。さらに、世界的な景気回復に大きく寄与しているとみられているのが中国の景気回復で、市場予測を若干上回る中国経済の回復が世界経済の回復を安定させているとの見方も強い。
現在、日本はこの世界的な回復の中で外需主導の回復局面にあるが、今回のFRBの利上げ見送りで回復腰折れの懸念は一時遠ざかったといえる。FRBは12月の利上げ実施について強い意向を示唆しているものの緩和縮小の影響にも強い配慮をしており、現在の世界的回復傾向に水を差すようなものにはならないと期待される。(編集担当:久保田雄城)