「356」はポルシェの名を冠した最初の量産スポーツモデル。フォルクスワーゲンの量産部品を多用した小型スポーツだが、ブレーキシステムだけはポルシェ・オリジナルだった。写真は先般の東京モーターショーでポルシェ・ブースに展示された「356スポードスター」
「356」は、ただのモデルではない。正確にいうと、「356」はポルシェの名を冠した最初の量産スポーツモデルだ。356は1948年から1965年にかけて製造され、フォルクスワーゲンから多くの量産部品が提供され、製造されたクルマだ。ただし、ブレーキシステムだけは、ポルシェ・オリジナルの鍛造ドラムブレーキだった。
356は、高度な運動性能と居住性、実用性を満たした小型スポーツカーであり、第二次世界大戦後のコンパクトスポーツカーのベンチマークとなったモデルでもあった。
356は今でも、ポルシェを象徴するモデルとしてオーナーに愛され、クラシック・ポルシェとして現役で、数多くのクルマが走り続けている。そのドライビングプレジャーは、今でもオーナーたちを魅了し続けている。
1950年代以降、自動車には国際的に多くの要求事項が課せられるようになる。特に安全性能とその基準、なかでもブレーキシステムなどの安全性に関するコンポーネントに高い性能が求められてきた。そのため、クラシック・ポルシェにとって定期的なメンテナンスと摩耗した部品の交換が非常に重要になった。しかしながら、純正の交換部品は、すでに使い果たされてしまっていた。
そこで2017年、ポルシェは、停止するために作られた“ポルシェ・クラシックスタンダード”であるポルシェ・クラシックブレーキドラムを再設計して製造・供給をスタートさせた。
ポルシェによると今回発売する鍛造ブランクから丹念に製造されるポルシェ・クラシックブレーキドラムと、市場に流通しているサードパーティ製の交換部品との間には、決定的な違いがあるという。ポルシェ・クラシックスタンダードであるブレーキドラムは、製造された後に行なわれるポルシェの内部検査にすべて合格している。もちろん形式承認も継続されている。
今回供給が始まったブレーキドラムは、1955年から量産され1959年まで販売された「ポルシェ356A」用、1959年のフランクフルトショーで発表され1963年まで製造された「ポルシェ356B」用の鍛造パーツだ。それぞれに適応するブレーキシューも同時に純正部品として供給される。
1956年発売のポルシェ356Aは、44psの1300ccエンジン搭載のスタンダードモデルから75psの1600ccエンジンを搭載した「1600スーパー」から始まり、1959年の115psの「1600GSカレラGT」まで2万0607台が製造された。
356Aを引き継いだ「356B」は、1600ccエンジンでスタートし、1963年モデルでは、遂にレーシング・ポルシェである「904」に搭載されていた130psの2000ccエンジンまでアップされた「2000GS」となる。356Bは、累計3万1192台製造販売された。
70年前のモデルのパーツを再設計・生産・供給するメーカー、ポルシェ。スポーツカーメーカーとして面目躍如といえそうだ。(編集担当:吉田恒)