未来の新居を自宅にお持ち帰り? 進化、導入が加速するVR技術

2018年03月11日 15:01

vr

積水ハウスのVR空間体験イメージ。顧客のプラン検討を支援する

ゲームやアミューズメント施設などで、すっかりお馴染みのVR(Virtual Reality)技術。CGなどで人工的に構築された仮想現実を実際の世界のように体験できるこの技術は、これまでは主に娯楽用途に使われてきたが、市場はすでにビジネス用途の拡大へ移行している。

 IDC Japanが2017年12月の発表した市場予測によれば、世界のAR(拡張現実)・/ VR(仮想現実)関連市場の規模は、2018年には2兆114億円まで伸長し、2021年には18兆9億円にまで成長すると見込んでいる。

 同社のカスタマー インサイト&アナリシスのリサーチディレクターであるマーカス・トーチャ氏は「企業にとっては、VRを顧客向けと社内向けの両方で採用する準備が整いつつある」と述べているが、日本の大手企業もすでに、VRが持つ多くの潜在的な応用可能性に着目し、プロダクトデザインから従業員訓練に至るまでVR技術の導入を始めている。

 例えば、積水ハウスは昨年末、住宅業界で初めて独自のCADシステムと連動させることで、邸別自由設計のオリジナルプランに即して短時間にVR空間を体験できるように全国で実用化した。オリジナルCADから生成する完成CG図を用いた顧客へのプレゼン提案の全てで、このVR空間体験が可能だという。

 もちろん、オリジナルプランのVR用データをQRコードとしては持ち帰りもできる。自宅で同社が提供をするVRゴーグルと自身のスマホを使って、

 同社の住宅商品の特長である広いリビングや吹き抜け空間、大開口部の雰囲気、木質仕上げの質感など、口頭や紙面の説明だけでは伝わりにくかった魅力を、VRの臨場感あふれる空間体験で楽しみながらプランを検討することができる。

 また、CADデータをサーバーに送ることで、VR画像に自動変換ができるので、CADデータ作成設計からプレゼン提案までのタイムラグを大幅に短縮し、顧客満足度向上につなげる。また自社内のCADシステムだけで作業が完結するため、従来に比べ大幅な業務効率化につなげることができ、「働き方改革」推進にも貢献する。

 近畿日本ツーリストおよび近畿日本ツーリスト個人旅行、KDDIも、2017年9月に東京ビックサイトで開催された「ツーリズムEXPOジャパン2017」で、日本で初めて海外ウェディングの360°パノラマ映像を日本へライブ配信するサービスの実証実験を行って話題となった。日本の出展ブースには親族を招待し、VRゴーグルとスクリーンで視聴することで、現地へ行かずとも遠くグアムの新郎新婦と感動体験を分かちあうことを可能にした。日本のブライダル関連市場は縮小傾向にあるものの、海外ウェディングを検討する人は増加傾向にある。しかし、招待する人数や出席者の体力、スケジュール、金銭的負担などがネックになっているという。これを打開し、販売拡大を実現するものとして、KNTとKDDIはこのVRサービスの事業化の検討を進めており、VR技術の可能性に期待を寄せている。

 また、関西電力でも、原子力発電所の仕組みや安全対策などの理解を深めるために国内では初めて、昨年8月から大飯発電所の見学会でVR映像を導入している。映像では、通常では入れない原子炉や蒸気発生器、タービンなどの施設や設備を疑似的に視覚体験できるとあって見学者にも好評で、今年1月からは美浜発電所でも活用を始めている。

 その他にも、先進的な企業を中心に、VRやARを利用して業務改善や社員教育、技術の伝達などに利用するケースが増え始めている。VRを使えば、仮想空間上で基礎的な操作を学ぶことができるし、ARを活用すれば、実際の現場で操作工程をトレーニングすることなども可能だ。

 ただし現場レベルでは、その可能性に興味や関心を持っていても、なかなか導入が進まない傾向も見られる。しかし、その一方で具体的な導入事例が増えてくると、一種の流行りのように一気に普及が進むのも、日本企業の特徴。積水ハウスや近畿日本ツーリスト、KDDIのような事例が増えてくれば、VRやARのビジネスへの導入は爆発的に拡大するかもしれない。(編集担当:藤原伊織)