4月1日、「芸どころ」名古屋の芸能・文化を継承する「御園座」が新しく生まれ変わる。
それに先駆け、3月28日に行われた開場式で、御園座の小笠原剛会長が「地元の応援をいただき完成できた。御園座は今年で122年目となる。今後も地域とともに歩み、発展していきたい」と挨拶をし、河村たかし名古屋市長は「御園座は自分にとって思い出深いところ。これからはみんなが気軽に来られる場所にしていきたい。御園座をみんなで応援しましょう。」と思いを語った。また松本幸四郎改め二代目松本白鸚と市川染五郎改め十代目松本幸四郎らが祝賀の舞踊「寿式三番叟」を披露して開場に華を添えた。
2013年3月に閉館して以来、実に5年振りとなる新生「御園座」公演の開幕を飾るのは「柿葺落四月大歌舞伎」。二代目松本白鸚と十代目松本幸四郎の襲名披露興行だ。その後5月には市川猿之助の演出・主演による「スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』」、6月にはジャニーズ事務所所属の滝沢秀明が座長を務める「滝沢歌舞伎2018」と、バラエティに富んだ人気演目が続く。
名古屋三座と言われた名鉄ホールが2015年3月に閉館、今年3月25日に中日劇場が幕を降ろした今、名古屋の老舗劇場として唯一残るのが御園座だ。一時「御園座」の存続が危ぶまれたが、2013年に積水ハウスが土地と建物を買い取り、事業主として劇場を新生し、商業施設、分譲マンションの複合開発を提案。トヨタなどをはじめとする名古屋財界185の企業・団体・個人が「御園座」に出資した。さらには愛知県と名古屋市も補助金を拠出するなど、まさしく官民一体となって再開発が実現した。「御園座」が存続し、歌舞伎などの伝統芸能の他、ミュージカル等の新たな演目の公演が可能な劇場に生まれ変わったことで、日本を代表する公演が東京や大阪だけでなく名古屋にも上演される機会が増えることが考えられ、芸どころ名古屋と言われる名古屋の芸能・文化の継承、そして発展のための舞台が守られたと言えるだろう。
「御園座」と商業施設、積水ハウスの分譲マンション「グランドメゾン御園座タワー」(304世帯)の複合ビル「御園座タワー」は地上40階建てで高さ約150メートルを誇る。名古屋の新しいランドマークの設計監修を担当したのは、2020年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の監修や、歌舞伎座、サントリー美術館などを手掛けた、建築家の隈研吾氏だ。
隈氏と事業主の積水ハウスは、この御園座の復活プロジェクトに際し、由緒ある歴史と文化、伝統と格式を継承しつつ、商業施設や分譲マンションとの複合開発を行うことで、周辺地域はもとより、名古屋全体の活性化に繋がるものを目指した。
「御園座タワー」のデザインにあたっては、さまざまな工夫が凝らされた。かつての御園座の外観を特徴づけていた「なまこ壁」と呼ばれる黒と白の斜めの格子模様を現代的に蘇らせ、外観のシンボルとして踏襲した。劇場内のインテリアを特徴づけていた「御園座」独特の朱色も引き継ぎ、エントランスからロビー、ホール、さらには歩道も行政の協力を得て朱色で彩られている。積水ハウス阿部俊則会長は「敷地面積の約24%を緑化し、潤いと安らぎのある街並みに寄与する計画としています。新たな賑わいとますます街が活性化することを期待しています。」と述べた。
これまでにも、三菱地所が手掛けた東京銀座の「歌舞伎座タワー」や、大阪でも、難波の新歌舞伎座跡地に冠婚葬祭大手のベルコが2019年10月の開業を目指して建設中の「ホテルロイヤルクラシック大阪」(仮称)の低層部に同劇場のファサード及び屋根の一部を継承したデザインが予定されているなど、日本の企業や団体が、今の社会に溶け込む形で伝統文化を後世に遺そうとしている例が増えてきている。
オンリーワンの日本文化を絶やさないためにも、新生「御園座」の盛況を祈りたい。(編集担当:藤原伊織)