年収1075万円(目安)以上の専門職を労働時間規制対象から外し、成果で評価する「高度プロフェッショナル制度」。政府は制度創設の法案が成立していないにも関わらず、15日閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2018」の中の働き方改革に「高度プロフェッショナル制度の創設」を明記した。
しかし、高プロ制度の問題点は国会審議等で次々、明らかになっている。立法事実さえ危うい。働き方改革関連法案から一旦削除し、高プロ制度については審議のやり直しが必要だ。労働者側から創設希望があったとは、とても思えない。加藤勝信厚労大臣の記者会見や国会答弁にもあやふやな説明が多い。直近の記者会見でも高プロに関して何人に話を聞いたのかとの記者団の問いに「色々な機会に人と会うたびに、IT関係の方、コンサルタントの方等々、機会を取って聞かせて頂いているということで、手元で何人という記録を持っているわけではない」。高プロが経団連の要請を受けた制度創設ありきで動いた結果ではないのか。
これまで安倍晋三総理も労働者のための制度だと強調してきた。しかし法案提出根拠としていた労働者からのヒアリングは12人。しかも法案提出前に政府がヒアリングしたのはたった「1人」だった。社会民主党の福島みずほ副党首は「立法理由は後付け」と制度創設ありきだと強く疑問を呈している。
働き方改革が労働者のための働き方改革と主張するのであれば「労働者が危惧する必要のない制度」に設計し直し、労働界の納得を得て、創設できる環境づくりを行うことが必要だ。
共同通信が報じたところでは「高プロ」について前身となる法案が国会に提出された2015年4月3日以前に厚労省が対象となりうる専門職についてヒアリングしたのは15年3月31日に行った「1人」のみだった。厚労省の参院厚労委員会理事会への「ヒアリング実施時期」の開示で分かったとしている。
ヒアリングは、その後も15年5月11日に2人、今年1月31日に6人、2月1日に3人。「5社12人のみ」で、勤務先が同じというものが複数人ある。このようなヒアリングに客観性が反映されているとは思えない。12人中9人のリアリングに人事担当者が同席していた。これで本音が聴取できたのか、そもそも調査方法にも問題のあることがわかってきた。
今月5日の参院厚労委員会では日本共産党の吉良よしこ議員が「毎月20万円程度支払い、残り800万円をプールし、最後にまとめて支払うやり方も許されるのか」と提起。山脇敬一労働基準局長は「個々の労使で支払い方法は定められる」と最低賃金に違反せず、労使間合意があればできるとの認識を示した。吉良議員は「労働者は満額支払われるまで高プロを解除することができない」と指摘した。
専門職として、いかに有能な労働者も、労働力を売る立場に変わりはなく、労働力を買う経営側と自らの労働条件について対等に交渉できるとは思えない。労使関係においては弱者となる労働側を保護する法整備、環境づくりにこそ取り組むことが必要で、そうした取り組みこそ社会が元気になるということを政府・与党は認識するべき。
厚労省は14日の参院厚労委員会で立憲民主党・石橋通宏参院議員の問いに対し、年収1075万円(目安)には「通勤手当など事業者から確実に支払われる手当ては含まれる」と答弁した。税金計算では通勤手当が月額10万円以下であれば非課税扱いとなり年収に含まれないはずだが、例えば月額9万9000円の通勤手当が高プロ制度での年収に含まれるとすれば、実質年収956万円の専門職も対象になる。家族手当、住宅手当など定額手当も含まれる解釈になるので、さらに対象年収額は引き下がることになる。これで労働者が働きやすくなる制度などと言えるのか。
ちなみに「年間平均給与3倍の額を相当程度上回る水準」という基準についても、パート労働者などを含めているために1000万円程度になっており、一般労働者を対象に3倍程度(1200万円程度)とすべきではないのかとの指摘もある。制度創設の必要性も、制度設計もあいまいな部分が多すぎると言わざるを得ない。創設するなら制度設計から審議をやり直すべきだ。
今国会が働き方改革国会だったとすれば数の力で強引に成立させるのではなく、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」「最低賃金引上げ」など与野党が賛成できる法案のみを成立させる勇気を持つべきだ。(編集担当:森高龍二)