英国の欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」の可能性が高まり、欧州自動車業界が揺れている。次々と顕わになる産業界への悪影響にともなって英国の経済不安が増大してきたからだ。
日産自動車は、英国で予定していた主力車種の生産計画をとりやめ、日本に切り替えると発表し、英国内で波紋が拡がっている。対象は人気モデルであるSUVエクストレイルの次期モデルで、日産は事業環境が不透明になったとして計画を撤回した。英国ではEU離脱を見据えた企業の動きが加速している。
日産は英国サンダーランド工場で、2020年前後からSUV「X-TRAIL」(エクストレイル)次期モデルを生産する計画だったが、日産自動車九州(福岡県苅田町)における製造に切り替える。2017年、現行エクストレイルは、欧州販売台数9万2000台記録、欧州販売全体の12%を占める重要車種だ。
英国のEUからの「合意なき離脱」が、準備期間のないまま3月末に行なわれた場合、自動車の貿易に関税が発生しコストが上がる。EUの域外関税は自動車10%、自動車部品5%。英国は生産した自動車の8~9割を輸出する。一方、自動車部品やエンジンの8割をEUから輸入している。「合意なき離脱」で英国からEUへの輸出車に10%関税がかかり、さらにサプライチェーンが寸断されると壊滅的な打撃を受けると予想される。
日産とトヨタは英政府から「離脱後も競争力を維持する」との念書を取っている。メイ政権はサプライチェーンを確保するため、製造業について英国の関税や規制を離脱後もEUに合わせるとみられている。ところが「合意なき離脱」となるとすべてが不透明となる。
英EU離脱に伴う不透明感によって多くの自動車メーカーが事業展開に影響を受けている。自動車産業にとって「合意なき離脱」が実施され、“英国生産の経済的合理性”が失われた場合、自動車各社は生産拠点の変更を検討するのは間違いない。
ホンダは英南部スウィンドン工場で、4月に計6日間の自動車生産の予備日を設けることを明らかにした。現時点では、この6日間は生産を休止する予定だが、3月末に予定される英国のEU離脱に伴い、国境で部品の運搬に支障が出て生産に遅れが出た場合など備える。ホンダも混乱を最小限に抑えるため、対応を迫られた恰好だ。
イギリスの自動車名門のジャガー・ランドローバーも、英国のEU離脱で予想される混乱を避けるため、4月に一時生産を停止すると発表した。ジャガー・ランドローバーが生産を休むのは4月8~12日。英国内の同社の工場は、3カ所の自動車組立工場と、エンジン製造工場だ。
ドイツのBMWも、英国での小型車「MINI」の生産を4月1日から約1カ月間休むと発表。設備点検のため夏に予定していた生産休止を前倒しし、「部品供給が混乱するリスクを最小限に抑える」という。
英国がEUとの間で何の取り決めもないまま3月末の離脱の日を迎える可能性が高まるなか、英国の自動車産業では生産休止で混乱に備える動きが目立ってきた。(編集担当:吉田恒)