電気自動車(以下、EV)の普及とともに、オンボードチャージャー(以下、OBC)市場が拡大している。
家庭用コンセントや充電ステーションからは、100~240Vの交流(AC)が供給されているが、EVのモーターなどは、車載バッテリから供給される直流(DC)で動いている。
OBCは、住宅のコンセントや充電ステーションから供給される、100V~240Vの交流を直流に変換し、車載バッテリに充電するためのAC/DCコンバータのことで、EVには必要不可欠な部品だ。
株式会社グローバルインフォメーションの調査によると、 2018年のOBCの世界市場規模は11億1000万米ドル。2019年から2029年の10年間におけるCAGR (年間複合成長率) を16.31%と予測している。現在普及しているOBCが変換できる交流は85V~265V程度だが、充電時間短縮の市場ニーズが増していることで、急速充電規格の電圧が高くなり、バッテリ電圧も高くなる傾向にあるため、OBCにもより高い電圧の変換が求められつつある。
そこで今、注目されているのが、シリコン (Si) と炭素 (C) で構成される化合物半導体材料SiC(シリコンカーバイド)だ。先述したOBCにおいても、SiCの採用が進められているが、一体、SiCの何がそんなに優れているのだろうか。
まず、SiCを用いたパワーデバイスを採用すれば、従来のSiパワーデバイスと比較して、変換時の電力損失を大幅に低減することができる。OBCやEVにおいても、電力損失を減らすことができれば、当然変換効率や伝達効率がよくなるため、このSiCパワーデバイスの特徴によるメリットは非常に大きい。また、SiCパワーデバイスは高温度環境下での動作特性にも優れているという特徴を持つ。高電圧、高電流が流れると、その一部は熱となるが、熱に強いSiCパワーデバイスを使うことで、放熱用部品の小型化などを実現でき、システム全体の小型化にもつながる。
日本の電子部品メーカーでは、ローム株式会社がSiC パワーデバイスのリーディングカンパニーとして世界的にもシェアを拡大している。直近では中国・総合車載Tier1 メーカー、UnitedAutomotive Electronic Systems Co., Ltd. (以下、UAES 社)の電気自動車用OBCに同社のSiC MOSFET が採用されることが発表されたばかりだ。
今回発表されたOBCは、ロームのSiC MOSFET を採用したことで、従来のOBCよりもユニットとして1% の高効率化(効率95.7%達成、従来から電力損失を約20%削減)に成功。UAES社はこの先進的なソリューションを提案するロームへ昨年「2019 年最優秀技術進歩賞」を贈っており、期待値の高さも伺える。同OBCは今年10 月に自動車メーカーに向けて提供が開始される予定だが、中国市場で非常に高いシェアを誇り、EV向けアプリケーション開発にも注力しているUAES社とロームの中国市場での活躍が楽しみだ。(編集担当:藤原伊織)