5G通信やAIの導入、IoTベースのスマートソリューションなど、産業機器を取り巻く環境が目覚ましい発展を遂げている。新しい技術やシステムの進化によりどんどん便利になる一方で、産業機器の内部はより複雑になり、繊細さを増していく。さらなる発展と成長のためには、安全性を確保することが最も重要な課題となる。
高性能な産業機器がさらされるリスクは多岐にわたる。例えば、サイバー攻撃だ。
Ocean社が発表している最新のレポート「産業用制御機器市場:制御システム、コンポーネント、エンドユーザー別:機会分析と業界予測、2021年~2027年」によると、世界の産業用制御機器市場はアジア太平洋地域を中心に年平均成長率5.91%で推移すると予測しており、2027年には市場規模が1923億1000万ドルに達する見通しを立てている。しかし、もしもこの産業制御システムにサイバー攻撃が仕掛けられたら、途端に工場は操業停止に追い込まれるかもしれない。操業停止とまではいかなくても、機器の故障などを引き起こされれば、金銭的損失は計り知れない。また、知的財産が盗まれる可能性もある。
日本でも、総務省と経済産業省が2016年7月に「IoTセキュリティガイドライン ver 1.0」を策定。サイバー攻撃に対する対策の指針をまとめるなどしているが、近年は組織的な犯行や巧妙な手口も増えており、さらにはこのコロナ禍でリモート化が進んだことにより、リスクが膨れている。
日本ではNECが、企業のサイバーセキュリティを向上し、サポートするための支援サービスを提供しているが、産業制御システム分野ではとくに、こういったサービスや技術の需要が増してくるのではないだろうか。
サイバー攻撃だけでなく、自然も大きな脅威となる。その代表的なものが、雷の被害だ。
例えば、5G通信基地局や FA機器をはじめとする先進的な産業機器で採用される電源IC には、小型・高効率動作だけでなく、多くの機能を動作させるために大電流への対応が求められているが、それと並行して、雷などによる突発的な高電圧を受けても壊れない高い耐圧が必要になる。
世界でさまざまな技術開発が進むが、日本の電子部品メーカーではロームが高度化する産業機器に求められる小型・高効率動作と高耐圧・大電流性能を備えたDC/DCコンバータICを開発した。今回の新製品「BD9G500EFJ-LA」は、5G通信基地局や充電ステーションなどで使用される48Vの電源系統向けとして業界最高クラスの80V耐圧を実現している。また、FA 機器をはじめ幅広い先進産業機器に使用される24Vの電源系統向けでは39V耐圧と出力電流5Aを実現した「BD9F500QUZ」を同時にラインアップしている。いずれも、雷やモーター起動時などの突発的な高電圧入力に対しても大きく余裕を取ることができるため、アプリケーションの高信頼化に貢献する。
最新の技術が導入されることで、生産性が向上し、現場の負担が減少されるのは望ましいことだ。しかし、急速な発展によって、トラブルに的確に対応できるような熟練の技術者が不足している現状も否めない。しかもこの課題は、少子高齢化の中でさらに深刻になっていくだろう。今後は便利さや効率だけではなく、もっと根本的な、部品レベルでの安全性や信頼性を重要視される時代になるのではないだろうか。(編集担当:今井慎太郎)