少子高齢化問題が深刻化する我が国にとって、国内企業の事業を継続的に拡大させるためには、海外展開が必要不可欠だ。そんな中、日本の対外直接投資先としてASEAN地域への期待が高まっている。日本貿易振興機構の調査によると、2021年上半期の日本の対外直接投資のなかで、アジア大洋州(APAC)地域が33.3%を占めていることが分かった。中でも対ASEAN投資は67.1%増と大きく伸びており、中国向けの4倍以上にものぼる。
ASEAN地域の中でも、特に注目すべきはベトナムだ。2019年に起きた米中貿易摩擦の際、中国からの生産移管先として、ベトナムが注目されたのも記憶に新しい。外務省の現地調査アンケートでも、一番重要なパートナー国に日本が挙がっており、すでにベトナムへ進出している日系企業の事業拡大意欲もASEANの中で最も高い。サプライチェーンの再設計の観点からも、ベトナムはポスト中国として非常に重要な国となっている。
ベトナムにおける日系企業の躍進もめざましい。人材紹介企業である株式会社JELLYFISHでは、現地で学生及び社会人に向けた日本語教育事業を展開している。2008年に文科省から発表された、日本への留学生を倍増させる「留学生30万人計画」を踏まえ、東南アジア圏からの留学生が増加することを見越して、2010年にベトナム・ハノイに日本語学校を開校。同時に留学支援事業も開始した。現在はその活動をベトナムの他、フィリピン、インドネシアの3カ国8拠点に広げている。
ベトナムに拠点を置いているのが、KAMEREO INTERNATIONAL PTE. LTD.だ。それまでベトナムには無かった生産者と飲食店・小売店を繋ぐプラットフォームを構築することに成功し、ベトナム初のB2Bオンラインマーケットプレイスを運営している。ホーチミンでは400を超える飲食店が利用しており、小売りチェーンの利用も増えているという。中長期的には、農家や飲食店及び小売店へのファイナンス等の周辺領域にも事業拡大を模索しており、更なる飛躍が期待できそうだ。
これからベトナムへ進出する企業もある。木造注文住宅を手がける株式会社アキュラホームだ。11 月末、アキュラホームグループ初の海外進出となる「株式会社アキュラホームベトナム」を設立したという発表があった。これまで国内で実施してきた設計積算業務、構造計算業務の一部を彼の地へ移し、約3割のコストダウンを図る。どのような状況下においても部資材の安定供給を確保し、木造住宅や中大規模木造建築を推進する「木造建築のアキュラ」として、国内外問わず、木造建築の普及を目指すという。
また、同社は2015年からベトナム人採用を推進しており、社員、技能実習生として、これまでに累計109名の在籍実績がある。その多くは3年で帰国する技能実習生だが、母国に帰った後に日本で身に付けた木造に関する知識と技術を活かし 活躍できる場を提供することにもなり、すでに現地法人が成立する土台が出来上がっているようなものだ。同社では今後、アジア圏で材の加工や職人の育成にも取り組み、住宅建材、資材、住宅設備などを輸入できるような製造加工工場の新設などの計画も検討しているという。
海外進出には、事業拡大のメリットと共に、国際情勢に影響を受けてしまうリスクもつきまとう。米中の新冷戦や、ロシアとNATOの睨み合いなど、一筋縄では行かない問題も山積している。そんな中でASEAN諸国は比較的安全な地域だ。経済面での安定が、外交上においても安定的な関係を生む。そういった意味でも海外進出する企業の動向には注目していきたい。(編集担当:今井慎太郎)