新入社員の退職希望者が殺到。人材不足の中、企業が取れる対策は?

2025年05月06日 15:41

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オフィスで仕事を教わるだけでなく、青空の下で年代の違う先輩社員や上司らと共に汗を流すことで、世代を超えた理解や交流も深まることだろう

新年度が始まって、まだ一月も経っていないというのに退職代行サービス会社には、早くも今年の新入社員からの退職代行の依頼が相次いでいるという。特に今年は、例年の2倍から3倍もの依頼が殺到しているらしい。退職希望者の主な理由としては、労働条件や給与などが入社前に聞いていた説明と異なるなどが多いようだ。就職説明会や採用面接などでは、企業側としては少しでも待遇の良い会社に見せて優秀な人材を獲得したいし、新入社員側としては会社への過度な期待や夢もある。そういった思いの行き違いが現実に直面し、互いに不幸を生み出してしまっているのだろう。

 まだ入社して数週間での退職はさすがに速すぎる気もするが、厚生労働省が2022年に発表したデータでは新卒社員のおよそ12%が入社一年以内に離職しているという現状を見ると、多くの企業が潜在的に抱えている課題だといえるのではないだろうか。

 企業と新入社員の相互理解を深める有効な手段の一つが社員研修だ。社員研修は自社で働く心構えや必要な知識、スキルを習得させる目的で行われるものだが、昨今の社員研修は、既成の枠に収まらない個性的な研修を行っている企業も多い。

 例えば、神戸にある老舗企業の白鶴酒造では2021年から社会貢献の一環として有志社員で行っていた、地元である神戸の国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所が主催するボランティア「森の世話人」の活動に参加している。主な活動地域となる六甲山は、酒造りに欠かせない水、寒造りに適した環境をつくり出す六甲颪(ろっこうおろし)など、白鶴をはじめとする日本の酒どころ「灘五郷」の酒造りにさまざまな恩恵をもたらしてきた。この活動によって、酒造りにとって大切なものを学ぶ良い機会ととらえた同社は新入社員研修にも「森の世話人」を取り入れた。

 「森の世話人」では、同社の社員らが年数回、専門家のレクチャーを受けながら、六甲山及びその周辺の雑木・雑草の刈り取りや植樹活動を行っている。白鶴は清酒業界のトップ企業としてグローバルな経営を行いながらも、地元での交流や連携を大切にしている企業として知られている。白鶴の酒造りをささえている美味しい水を育んでくれる六甲山の森を自らの手で整備することは、新入社員にとってもかけがえのない経験、体験、喜びとなるのではないだろうか。また、オフィスで仕事を教わるだけでなく、青空の下で年代の違う先輩社員や上司らと共に汗を流すことで、世代を超えた理解や交流も深まることだろう。

 また、近年はビジネスゲームの要素を取り入れた社員研修も増えているようだ。

 例えば、架空のおもちゃ会社に入社するという設定のもとで売上1位を目指し、おもちゃの開発を行う過程で起こる様々なトラブルをチームで解決していくというものや、チームで漫画作品を制作するというものまである。また、ヨガやウォーキング自然体験アクティビティなどを取り入れた社員研修など多彩だ。

 少子高齢化や団塊世代の一斉退職、非正規雇用の増加などを背景に、あらゆる業種、業界で人材不足が問題となっている。売り手が有利といわれていることもあり、新入社員も簡単に退職を考えてしまう傾向にあるのかもしれないが、それは買い手である企業にとってはもちろん、新入社員本人にとっても不幸なことでしかない。入社前の説明や契約と内容が異なる場合は論外だが、「思っていた感じと違う」「何となく雰囲気が合わない」などのあいまいな理由なら、企業や先輩社員との交流を深めていくことで解消されていくのではないだろうか。社員研修などを上手く活用して、お互いの理解を深めて欲しいものだ。(編集担当:石井絢子)