売れない土地は誰が持つのか 相続国有地が映す人口減少日本

2026年06月18日 07:46

財務省正面

相続土地国庫帰属制度の拡大を受け、財務省は「抱える行政」から「流す行政」への転換を加速。売却実績ゼロという現実を背景に、人口減少時代の国有財産管理と土地市場の構造変化が新たな局面を迎えています。

今回のニュースのポイント

相続土地国庫帰属制度による国への土地帰属件数が2,606件に達し、財務局等が1,586件を引き受けるなか、財務省は流動化を最優先とした新たな管理方針を打ち出しました。背景には、帰属した土地の多くが市場性に乏しく、現時点で売却に至った事例が皆無であるという厳しい現実があります。土地が希少資産から余剰資産へと変化する人口減少下の日本において、所有から流動化、転じて地域循環へと資産政策の歴史的な大転換が始まっています。

本文
 財務省理財局が公表した国有財産分科会の最新資料は、日本の国土と不動産市場が、人口減少を背景に歴史的な構造変化の渦中にある現実を浮き彫りにしています。令和5年4月に開始された相続土地国庫帰属制度において、国庫への帰属件数は総数で2,606件に達し、このうち財務局等による引受件数は1,586件を数えるまでになりました。その内訳は宅地が948件、農用地が849件、森林が171件、その他が638件となっており、地方や郊外を中心に国庫への土地の帰属が急速に進んでいます。

 高度経済成長期の土地不足や、バブル期の土地神話において、土地は持つだけで価値が上がる最大の希少資産とされてきましたが、人口減少と地方の空洞化が進む現在は、維持管理コストや所有リスクが資産価値を上回る土地余りの時代へと大きく転換しつつあります。所有者不在となった負の資産の最終的な受け皿として国庫帰属の増加が続くなか、日本の土地市場は、土地不足から土地余りへの歴史적転換点を迎えています。

 しかし、この制度の本質的な課題は、国へ移った土地が市場で全く循環していないという厳しい現実にあります。財務省は資料内で、国庫に帰属した土地は市場性に乏しいものが多く、長期間保有し続けることが想定されると明記しており、実際にこれまでの売却手続において現時点で売却に至ったものは皆無であるという実態を公表しました。国がこうした流通性のない過剰資産を抱え続ければ、莫大な維持管理費が財政負担として社会に跳ね返ることになります。このため財務省は、従来の国有財産管理における「抱える行政」から、「持たない・早く流す」ことを重視する流動化行政へ舵を切りました。

 具体的には、隣接土地所有者等を対象とした随意契約の積極的な活用に加え、国側が測量や境界確定を行わない現状有姿売買を導入し、面積1,000平方メートル以下かつ概算評価額5,000万円以下の宅地等を対象に、職員が簡易に価格を算定する職員評価を適用して迅速な市場放出を試みています。

 この流動化を最優先する行政への転換を決定づけるのが、市場への還流速度を最大化させるための段階的な価格修正システムです。新方針では、現状有姿での売買に伴う将来的な損害リスクや管理コストの負担が買主へ移転することを勘案し、相続税評価額ベースの算定額から30%の取引条件修正(残価率70%)を標準として差し引きます。さらに、ホームページで財産情報を公表して国利用や公的取得要望、一般要望を同時に受け付けたものの、買受けの申し出がない場合には市場に需要がないと判断し、公表から3か月が経過するごとに段階的に10%ずつ評価額を引き下げる市場の反応に応じた修正を導入しました。

 この引き下げは残価率10%を限界として機械的に繰り返され、価格を極限まで下げてでも地域社会や民間へ土地を流動化させる姿勢を鮮明にしています。これは、国有財産の価格の最大化を目指したかつての財政運営のあり方を変革し、社会の目詰まりを解消するための流通型システムへの歴史的な大転換を意味します。

 問われているのは、過剰となった土地を単に誰が持つかという所有権の所在ではなく、地域でどう循環させるかという活用と維持のグランドデザインです。財務省は別資料において、土地を単なる財産処分として捉えるのではなく、地域課題や都市計画、防災計画、さらには地域拠点の整備までを一体で勘案する地域における国公有財産の総合的活用へと政策の視野を広げています。かつての資産としての土地から、住民生活の維持に直面する地域インフラとしての土地、そしてこれからの人口減少時代における地域政策としての土地へと、その概念の本質は変化しつつあります。国が流動化を選択し、価格を限界まで引き下げて市場へ戻そうとするなか、今後は自治体、民間企業、地域コミュニティといった多様な主体が連携し、余剰となった土地を柔軟に受け入れ、再配置できる社会的な仕組みの構築が不可欠となります。

 財務省の「流す行政」への挑戦は、単なる手続きの柔軟化にとどまらず、人口減少国である日本の国土のあり方をマクロ的視点から再定義する重要な試金石と言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)