日銀、国債含み損45兆円超 それでも2兆円利益の理由

2026年06月22日 10:06

イメージ

日本経済が「金利のある世界」へ移行するなか、日銀のバランスシートにも変化が表れ始めている(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

日本銀行が公表した第141回事業年度の財務諸表等によると、保有する長期国債の含み損が45兆円を超える規模に達していることが明らかになりました。その一方で、当期未処分利益では約2兆2866億円を確保し、国庫納付金も1兆8301億円を計上しています。なぜ45兆円もの膨大な評価損を抱えながら、健全な収益力を維持し続けられるのでしょうか。「金利のある世界」へと本格的に回帰し始めた日本において、中央銀行のバランスシートの深層で起きている構造変化と、その強固な収益基盤のメカニズムを冷徹に読み解きます。

本文
 日本銀行の最新の財務諸表から浮かび上がったのは、マクロ経済の地殻変動を生々しく反映した巨大な数字です。令和8(2026)年3月末時点の「民間企業仮定貸借対照表」によると、日銀が保有する長期国債の帳簿価格(仮定貸借対照表計上額)は約530兆9823億円。これに対し、市場価格に基づく時価は約485兆4281億円にとどまり、その評価差額はマイナス45兆5542億円に達しています。この巨額の含み損は、日本経済が長年続いた超低金利環境から脱却し、長期金利が上昇局面に入ったことの直接的な裏返しにほかなりません。市場金利が上昇すれば、過去に発行された低利回りの国債の市場価値(価格)は下落するため、日銀のポートフォリオに巨額の含み損が膨らむのは債券市場の冷徹な数理的帰結です。

 しかし、これほどの潜在的損失を抱えながらも、日銀の損益計算書が赤字に転落する兆候は見られません。それどころか、当期未処分利益で約2兆2866億円という極めて堅実な黒字を計上しています。この一見矛盾するように見える構造を支えている原動力は、日銀が保有する資産から生み出される圧倒的な収益力にあります。

 当期の損益計算書を見ると、有価証券利息配当金が約2兆5309億円に上るほか、外国為替売買益が約7461億円、外貨債券収益が約2524億円を記録し、利益の強固な柱となっています。さらに貸借対照表上には、一般企業とは全く異なる中央銀行特有の通貨発行特権(シニョレッジ)の基盤として、約116兆3156億円にのぼる「発行銀行券」が負債の部へ計上されており、これが日銀の根源的な収益力を支える基礎となっています。

 したがって、この「利上げ時代」における45兆円超の含み損は、日銀の財務崩壊を意味するような異常事態ではなく、金融正常化が着実に進んでいることの「裏返し」と整理するのが正確な読み方です。2020年代前半の日本経済は、マイナス金利や長短金利操作(YCC)、国債の大量購入によって金利を極限まで抑制する世界にありました。しかし現在は、利上げや量的引き締め(QT)、国債買い入れ縮小へと政策運営の軸足を移しつつあり、それに伴う市場金利の上昇が保有国債の時価下落をもたらしています。つまり、含み損の拡大は、金利正常化が進む局面で生じる構造的な現象とも言えます。

 さらに、この評価損はあくまで帳簿上の時価評価であり、将来の赤字を約束する「実現損」ではないという点が重要です。日銀の会計方針では、保有する円貨建債券の大半について「移動平均法による償却原価法(定額法)」を採用しています。金利上昇によって市場価格ベースでは大幅な評価差額が生じているものの、日銀は円貨建国債の大半を償却原価法で保有しているため、その差額が直ちに損益として計上されるわけではありません。

 市場が今真に見つめているのは、表層の含み損額ではなく、正常化への過渡期においてもなお巨額の利益を維持し、国庫納付を継続しながら、当期末で7兆4577億円に達する債券取引損失準備金などの準備金をしっかりと積み上げられているという、中央銀行としてのタフな財務の持続性そのものです。

 今回の決算は、衝撃的な含み損のニュースの見出し以上に、日本経済が「金利のない世界」から「金利のある世界」へ移行するプロセスのなかで、日銀が強固な収益力と財務基盤を維持していることを示した決算だったと言えます。日銀のバランスシートは今、金融正常化に伴う副作用を抱えながらも、新たな運営局面へと入り始めています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)