スマホが衛星につながる時代へ 総務省が進める通信インフラ戦略の全貌

2026年06月26日 06:25

画・ディスプレイ関連部材。OLED関連で拡大。LCD関連で縮小傾向。

既存のスマートフォンが人工衛星と直接通信する「衛星ダイレクト通信」の制度整備が進む。通信インフラは地上の基地局だけでなく宇宙へと広がり、経済成長や経済安全保障を支える国家基盤として新たな段階を迎えている。(写真:イメージ)

今回のニュースのポイント

総務省は、700MHz帯を利用した非静止衛星通信システムの技術的条件を取りまとめ、既存のスマートフォンが人工衛星と直接通信できる「衛星ダイレクト通信」の制度整備を進めています。あわせて公表した情報通信政策では、通信を経済成長や経済安全保障を支える国家インフラと位置付け、6Gや海底ケーブル、AIネットワークなどを含む成長戦略を推進する方針を示しました。通信政策は「つながるための技術」から「国力を支える基盤」へと新たな段階に入りつつあります。

本文
 国内の通信ネットワークが地上から宇宙空間へと立体的に拡大するなか、政府は情報通信インフラを経済成長と安全保障の核に据える新たな国家戦略の具体化を進めています。総務省の情報通信審議会・衛星通信システム委員会は、携帯電話向けの700MHz帯非静止衛星通信システムに関する技術的条件の報告概要を取りまとめました。

 今回の制度整備は、中・低軌道に打ち上げた多数の小型人工衛星を連携させて一体的に運用する「衛星コンステレーション」を構築し、地上の通信圏外や災害時であっても既存のスマートフォンをそのまま人工衛星に接続する「衛星ダイレクト通信」の実現を目指す内容です。すでに制度化されている2GHz帯でのサービス提供に続き、電波が遠くまで届きやすく建物内にも浸透しやすい特性を持つ700MHz帯を新たに制度化することで、広域通信ネットワークの構築を後押しする狙いがあります。

 この宇宙空間を活用した通信インフラ整備は、単なる一通信サービスの拡充に留まらず、総務省の情報通信成長戦略官民協議会が取りまとめた中長期的な国家成長戦略と密接に連動しています。現在の我が国は、インターネット広告やクラウドサービスの使用料、動画配信のライセンス料などにともなう、いわゆる「デジタル赤字」が2024年時点で約6.7兆円に達するなど、情報通信分野での海外依存と国際競争力の低下が厳しい課題となっています。こうした構造からの転換を図るため、政府は情報通信を他のあらゆる産業の成長を支える「インフラの中のインフラ」と定義し、これをコストではなく成長投資として捉え直す方針を示しています。

 単に海外の優れた技術を「利用する」だけの国から、国内に開発力や運用力を蓄積して自ら「作れる」国への転換を目指すマクロ的なアプローチが、今回の具体的な技術的条件の策定という実務的な動きの背景にあります。

 こうした構造の抜本的強化に向けた「官民投資ロードマップ」では、陸・海・空の全空間を網羅する3つの主要製品・技術が重点化されています。具体的には、大容量・低遅延・低消費電力を実現してAI社会の基幹技術となる「オール光ネットワーク(APN)」、国際通信の99%を担うセキュアな「海底ケーブル」、そして今回の一手である宇宙・上空を用いた非地上系ネットワーク(NTN)を含む「次世代ワイヤレス」です。

 宇宙空間を活用する次世代ワイヤレス通信インフラの自律性を確保することは、安全安心な情報空間や経済活動の前提を守る経済安全保障上の最重要課題と位置づけられています。248基規模の衛星コンステレーションの導入は、地上基地局や光ファイバー網といった従来の地上設備に加え、上空からの電波発射によって地理的制約を克服する立体的な通信インフラを確立するための象徴的な第一歩と言えます。

 今回の技術的条件に関する検討では、すでに日本国内で運用されている他の無線システムとの共用条件が極めて慎重に精査されました。700MHz帯非静止衛星通信システムは、特定のラジオマイクや地上テレビ放送、高度道路交通システム(ITS)、既存の移動通信システムとの間で同一あるいは隣接する周波数帯を使用するため、相互の電波干渉を防ぐための詳細なシミュレーションが実施されました。対向モデルなどに基づく計算の結果、人工衛星からの電波発射やスマートフォンの最大出力動作時においても、適切な離調周波数の確保や特定のサービスエリア調整などの代替措置を講じることで、既存システムへの有害な混信を与えることなく共用が可能であるとの結論が示されています。客観的な技術検証を経て電波利用の障壁をクリアしたことは、実務的な社会実装への移行を大きく前進させる要素となります。

 情報通信を巡る政策の役割は、単に「速く通信できる利便性の向上」から、「あらゆる空間で、いつでも、止まらずにつながる国力の維持」へと明確に軸足を移しています。デジタル社会の進展にともない、自動運転やドローン、AIによる制御、防災といったフィジカルAIの社会実装を進めるうえでも、陸海空を統合した自律的な次世代ワイヤレス通信インフラの存在は必要不可欠です。

 政府が複数年度にわたる予算措置や規制改革を検討し、民間企業がリスクをとって社会実装を進める役割分担が示された今回の成長戦略のもとで、今回の700MHz帯衛星通信制度は、新しい通信サービスの制度化ではなく、日本の通信インフラを地上から宇宙へ拡張し、経済成長と経済安全保障を支える国家基盤へ進化させる第一歩と位置づけられます。今後は制度整備や官民投資、通信インフラの社会実装がどのように進むのかを継続して見極めることが、日本のデジタル競争力の行方を占う重要な視点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)