政府調達はAI産業を育てられるか 「初期需要」が日本企業の競争力を左右する

2026年07月21日 16:47

画・2021年度賃上げ、3社に2社で実施。製造業は大・中小とも7割超。ベア実施は3割未満。

東京都心のオフィス街。政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で、政府調達や実証を通じて国産AIモデルなどの初期需要を創出し、国内デジタル産業の競争力強化を目指す方針を示している。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

政府が決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、政府調達や実証を通じて、先端技術や国産AIモデルの初期需要を生み出し、国内企業による導入実績の形成を後押しする方向性が示されました。スタートアップや国内IT企業にとって、開発したAIモデルやクラウドサービスの初期需要を確保することは大きな課題です。政府調達が国内産業の市場形成にどのような役割を果たすのか、その狙いと日本企業への影響を整理します。

本文
 AIやクラウドなどの先進的なデジタル領域において、日本企業がグローバルな市場で競争力を高めていく上での大きな課題の一つが、開発した技術やサービスを最初に導入・実証してくれる顧客の確保です。どれほど優れた技術や国産AIモデルを開発しても、実績がなければ民間企業への普及が進まず、実績や顧客基盤を持つ海外の大手事業者との競争が難しくなるという課題があります。技術開発への支援だけでなく、新たな技術を実証し、導入実績を積み上げられる環境をどう整えるかが産業育成のポイントとなっています。

 こうした課題意識のもと、今回の重点計画では、政府調達や実証機会を通じて国内のデジタル産業を支える方向性が示されました。例えば、デジタル庁が構築した生成AI利用環境である「源内」で国産AIモデルを試行的に利用し、性能や活用可能性を検証するとともに、政府調達を通じた需要創出を検討する方針が示されています。政府の実証環境や調達機会を通じて、国内事業者を含むAI・クラウド事業者が導入実績を積める環境を整えることで、国内企業の成長や技術力向上の後押しにつなげる狙いがあります。

 海外の主要国においても、政府が公的調達や研究開発投資をテコにして国内の先端産業を育成するアプローチは広く知られています。米国では防衛や行政分野の政府契約が、先端技術企業に導入実績を与える役割を果たしてきました。欧州でも、データの管理や安全性を重視し、公共調達を産業政策に生かす取り組みが進められています。日本においても、海外事業者への依存リスクに配慮しながら、国内事業者が初期需要を獲得し、導入実績を積み上げる機会を設ける重要性が高まっています。

 この政府調達を軸とした政策は、国内の幅広いITサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があります。中小企業やスタートアップ企業にとっては、政府案件を足がかりに技術の実績を作り、民間市場への展開を加速させる機会となります。また、行政システムの構築を担う国内のシステムインテグレーターや国内クラウド事業者にとっても、セキュリティ要件の高い環境での運用実績を積み、技術力を高める機会となります。政府が定常的な調達基準やガイドラインを示すことで、業界全体の技術水準引き上げにもつながることが期待されます。

 急速に変化するデジタル社会において、政府には規則やルールの整備だけでなく、調達や実証を通じて新技術の導入機会を生み出す役割も求められています。行政が先進的なデジタル技術の初期需要を支え、国内のAI産業を育て、市場形成を後押しできるかどうかは、今後の日本企業の競争力にも影響を与える可能性があります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)