今回のニュースのポイント
警察庁や総務省などは、家庭のIoT機器が利用者の知らない間にサイバー攻撃の中継地点となる「レジデンシャルプロキシ」の脅威について注意を呼びかけるとともに、官民が連携した対策アライアンスを設立しました。国内で数万台規模の悪用機器が存在すると推定され、ネットバンキングの不正送金事件でも悪用が確認されています。サイバー防衛は企業だけでなく一般家庭も標的となる時代に入っています。
本文
インターネットに接続された家庭用電化製品や通信機器が、利用者の全く知らないところでサイバー攻撃を中継する「踏み台」として悪用されるケースが目立っています。専門用語では「レジデンシャルプロキシ(家庭用プロキシ)」と呼ばれますが、その実態は「自宅のインターネット回線が知らないうちに犯罪の中継地点にされてしまう仕組み」です。サイバー攻撃者が自身の身元や発信元を隠すため、一般家庭に割り当てられたIPアドレスを経由する手法であり、身近な家電等に入り込んだ新たなサイバー脅威として注目されています。
この問題が浮上している背景には、被害の規模感と実際の事件における悪用事例の多さがあります。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の調査によると、国内では1日平均で最大約2万7,000のIPアドレスが出口ノードとして観測されており、少なくとも数万台規模の家庭用機器が意図せず悪用されていると推定されています。警察庁の分析では、令和6年に発生したインターネットバンキングの不正送金被害のうち、1,918件(全体の約44%)、被害額にして約28.9億円(全体の約33%)でレジデンシャルプロキシが経由地として悪用されていたことが判明しました。不正アクセスにおいて、追跡を逃れるための手段として悪用されている実態が示されています。
なぜ家庭にある身近な機器がサイバー犯罪者に狙われるのでしょうか。背景には、日常生活の利便性やお得感の裏に潜むリスクが存在します。例えば、「テレビに接続すれば無料で国内外の動画が見られる」といった謳い文句で販売されている不審な動画ストリーミングデバイスや、デジタルフォトフレーム、ルーター、ネットワークカメラなどが挙げられます。これらの機器やアプリにおいては、購入前の製造・流通過程やフリーソフトのダウンロード、あるいは「使用していない通信量を共有すれば収益が得られる」とうたうサービスなどを通じて、レジデンシャルプロキシ機能や中継プログラムが組み込まれる事例が確認されています。また、機器のセキュリティ設定の甘さや脆弱性が放置されている場合も、外部から侵入される原因となります。
ここで懸念されるのは、機器の所有者自身が「被害者でありながら、攻撃者のように見えてしまう」という構図です。利用者はサイバー犯罪に加担している認識がなく、日常的に家電を使用しているに過ぎません。しかし、攻撃者がその機器を経由して企業や銀行へ不正アクセスを行った場合、通信先のサーバーには「その家庭のIPアドレス」が記録されます。そのため、警察の捜査や企業の被害追跡の際、何も知らない利用者自身がサイバー攻撃を行ったように見られてしまう危険性があります。
こうした事態を受け、サイバー防衛の観点は企業や機関にとどまらず、一般家庭のネットワーク環境にまで関わる問題となってきています。警察庁と総務省は2026年7月、NICTや大手通信事業者、セキュリティ企業、学識経験者らを結集した「レジデンシャルプロキシ対策アライアンス」の設立を発表し、8月下旬から本格的な協議を開始することを決定しました。官民が連携して実態解明や周知啓発、技術的な対処方針を検討する枠組みを作ったことは、サイバー防衛の対象が一般家庭にも広がっていることを象徴しています。個人の知識だけに依存するのではなく、社会全体で抑止に向けた環境整備を進められるかが今後の課題となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













