AI時代の電力需要増に備える 電気事業法改正で送電網整備を後押し

2026年07月24日 12:16

画・災害による停電を経験4割超。エネルギーミックスで安定供給を。

大規模送電線の整備を後押しする新たな支援制度が盛り込まれた。政府はAIやDX、GXの進展に伴う電力需要の増加を見据え、安定供給に向けた電力インフラの強化を進める。(写真:イメージ)

今回のニュースのポイント

政府は電気事業法を改正し、大規模送電線や発電設備の整備を支援する仕組みを強化します。背景には、AI活用の拡大を含むDXやGXの進展による電力需要の増加や、エネルギー安全保障への対応があります。送電網整備への資金支援や大規模電源の整備促進に加え、太陽光発電設備の安全性向上なども盛り込まれており、自由化の枠組みを維持しながら安定供給や供給力の確保を一層重視する電力政策の方向性を示しています。

本文
 政府は、電気事業法の一部を改正する法律の概要を公表しました。大規模な送電線や発電設備の整備を促進するための資金支援制度を創設するほか、太陽光発電設備の安全性向上措置や電力取引市場の監督強化などを盛り込んでいます。一見すると個別の制度見直しに見えますが、その本質はAIやDX、GXの進展に伴い増大する電力需要を見据えた「電力インフラの強化」にあります。自由化の枠組みを維持しながら、将来の安定供給と産業基盤の維持に向けた取り組みを強化する法改正として注目されます。

 なぜ今、電気事業法の改正が必要とされるのでしょうか。背景には、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化に伴う国際的なエネルギー情勢の変化があります。これに加え、国内ではAI活用やデータセンター整備の広がりを含むDXやGX(グリーン・トランスフォーメーション)の進展によって、将来的な電力需要の増加が見込まれているためです。単なる脱炭素への対応にとどまらず、AI時代において増加する電力需要に対応し、国の産業競争力を支えるエネルギー安全保障の確立が求められています。

 今回の改正における最大の柱となるのが、送電網整備の加速です。これまで地域間や地域内での大規模な送電線整備はコストや投資回収のハードルが課題となっていました。改正案では、経済産業大臣が送電線の整備計画を認定し、認可法人である電力広域的運営推進機関(電力広域機関)が財政投融資などを活用して整備資金を貸し付ける仕組みを設けます。さらに、供給エリア間の電力取引で発生する差額(値差収益)を国庫に納付し、電力広域機関への補助を通じて送電網整備に活用する仕組みも盛り込まれました。公的な資金支援を強化することで、再エネの受入拡大だけでなく、新たな産業立地を支える送電インフラの構築を進める狙いがあります。

 送電網だけでなく、発電設備そのものを確保・維持する仕組みも組み込まれています。大規模な発電設備についても経済産業大臣による整備計画の認定と資金貸付の制度を導入し、大規模電源の整備を資金面から支援します。一方で、大規模発電事業者が設備を休止・廃止する際には、一般送配電事業者等との事前協議を義務付けました。大規模電源の休廃止による供給力への影響を事前に把握し、中長期的な需給管理につなげる狙いがあります。

 あわせて、電力市場の信頼性を高める環境整備も進められます。小売電気事業者の適正な運営を保つため、一定期間事業を休止している事業者などの登録取消事由を追加するほか、将来の電力を取引する「中長期市場」や需給バランスを調整する「需給調整市場」を開設する卸電力取引所に対し、経済産業大臣による指定・監督制度を導入します。市場取引の健全性を確保することで、自由化の枠組みを維持しながら安定供給に資する取引の活性化を図る考えです。

 さらに、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーについては、普及拡大に加えて安全性の確保を重視する段階へと差し掛かっています。太陽電池発電設備の設計不備による事故を防ぐため、支持物などの構造安全性について、工事前に第三者機関(登録適合性確認機関)による技術基準適合性の確認を義務付けます。また、製品や施工の不良が発生した際には、製造・輸入販売事業者や工事業者に原因究明や再発防止への協力を求める措置を新設し、持続可能な運用の基盤を整えます。

 今回の電気事業法改正は、個別制度の修正にとどまらず、日本の電力政策が自由化の枠組みを維持しつつ、「将来の供給力確保」を重視する政策の方向性を示しています。市場原理のみに依存するのではなく、AIやDX、GXによって拡大する電力需要や急変するエネルギー安全保障環境に対応するためです。送電網や発電設備、市場ルールを一体で強化する今回の法改正は、AI時代の産業競争力を足元から支えるエネルギーインフラ構築へ向けた重要な取り組みとなるとみられます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)