シリコンフォトニクスチップとレーザー処理を表現したイメージ。京セラと東北大学電気通信研究所は、近赤外レーザーによる局所的な「レーザーアニーリング」を活用し、光アイソレータをシリコンフォトニクスチップ上に直接形成・集積する技術を開発。実験では13.6dBのアイソレーション比を確認し、戻り光を約95%低減した。(画像はイメージ)
今回のニュースのポイント
京セラと東北大学電気通信研究所は9月10日、近赤外レーザーを用いて局所的に加熱・結晶化する「レーザーアニーリング」技術を活用し、光アイソレータをシリコンフォトニクスチップ上に直接形成・集積する技術を開発したと発表しました。通信波長帯での実証実験において13.6デシベル(dB)のアイソレーション比を確認し、レーザー光源の性能を低下させる戻り光(反射光)を約95%低減することに成功しました。京セラによると、レーザーアニーリング方式を用いて光アイソレータをシリコンフォトニクス回路へ集積する技術として世界初(2026年7月同社調べ)となります。研究成果は9月2日付で国際学会IEEEの学術誌「IEEE Access」に掲載されました。
■ 戻り光を約95%低減、実際のデバイスで動作確認
京セラと東北大学電気通信研究所の研究グループは、次世代の光伝送技術として注目されるシリコンフォトニクスチップ上に、光アイソレータを直接集積するプロセス技術を開発し、実際にデバイスとしての動作を確認しました。
光アイソレータは、光を一方向にのみ通過させ、接続部分や導波路からレーザー光源側へと逆流する有害な反射光(戻り光)を遮断する保護部品です。今回試作されたチップを用いた評価実験において、順方向の信号光透過と逆方向の戻り光減衰の差を示すアイソレーション比として13.6dBが得られました。これは逆方向へ戻る不要な光パワーを約95%低減したことを意味します。走査型電子顕微鏡(SEM)等による断面観察でも、レーザーが照射された領域の磁気光学材料がシリコン導波路上で良好に結晶化していることが確認されています。
■ 600度以上の熱処理を「必要な場所だけ」に
光アイソレータの製造において最大の技術的課題となっていたのが熱処理プロセスです。優れた磁気光学特性を得るために使われる「磁気光学ガーネット」と呼ばれる結晶材料は、成膜後に約600℃以上の高温でアニーリング(熱処理)を行う必要があります。しかし、従来の炉などを用いた加熱手法ではシリコンフォトニクスチップ全体が高温に晒されるため、すでに基板上に形成されている電極や微細な回路を損傷・劣化させてしまう問題がありました。
両者はこの課題に対し、波長最適化された近赤外レーザーを局所照射する「レーザーアニーリング」手法を採用しました。磁気光学ガーネット膜を成膜した約700×700マイクロメートルの領域だけに近赤外レーザーを局所的に照射し、必要な特性を持つよう結晶化させました。周囲の光回路や電極への熱影響をほぼ排除しながら、光アイソレータをシリコンフォトニクスチップ上に直接形成・集積することに成功した点が今回の成果の核心です。
■ AIデータセンターで進む「電気から光へ」
今回の技術開発の背景には、生成AIの急速な普及に伴うデータセンターの消費電力増大と通信容量の限界問題があります。京セラは、通信の高速化と低消費電力化を両立させる技術としてシリコンフォトニクス市場の拡大を見込んでいます。
特に注目されているのが、光回路と電子回路を同一の半導体パッケージ内に統合するCPO(Co-Packaged Optics)です。京セラは、CPOによって信号経路を短くし、信号損失や消費電力を抑えられると説明しています。次世代の小型・集積型光回路では、シリコンフォトニクスチップ上に直接形成できる光アイソレータが求められており、今回の技術はその実現に向けた成果となります。
■ 「世界初」は対象を限定する
なお、京セラおよび東北大が発表した「世界初」の表現には技術的な限定条件があります。これは「レーザーアニーリング方式を用いて光アイソレータをシリコンフォトニクス回路へ集積する技術」としての世界初を意味します。
レーザーアニーリングによって光アイソレータをシリコンフォトニクスチップ上に直接形成・集積した点に新規性があり、京セラによる2026年7月時点の調査に基づくものです。
■ 次は低損失化と量産性
今回の技術は商用化に向けた開発段階にあり、直ちに製品化やデータセンターへの導入が行われる段階ではありません。
京セラと東北大は今後、商用化に向けて、さらなる低損失化、高効率化に加え、量産に向けた生産性向上を進める方針です。
AI処理向け計算能力の拡大に伴い、演算用半導体そのものの性能だけでなく、巨大なデータを遅延や損失なくやり取りする実装技術の重要性が高まっています。600℃以上の熱処理障壁を局所レーザー加熱で突破し、約95%の戻り光低減を実測した今回の試みは、将来の光電融合・CPO社会に向けた要素技術の一つとして今後の進捗が注目されます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













