今回のニュースのポイント
NTTは10月2日、神経線維の局所に痛みに相当する熱刺激を与え、そこで生じる神経信号の発生と伝播を電気的に捉える技術を実現したと発表しました。マイクロ流路、微小な発熱素子、電極を組み合わせ、神経線維の約100マイクロメートルの範囲を選択的に加熱し、1ミリ秒という短時間の刺激に対する神経信号を測定することに成功。ラット由来の感覚神経に加え、ヒトiPS細胞由来の感覚神経にも適用し、機能的な反応の違いも確認されました。NTTは今後、痛みへの感受性や薬剤応答の個人差を細胞レベルで定量化し、将来的な個別化医療やバイオデジタルツインへの活用を目指しています。
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「痛み」をチップの上で測る――。NTTが、そんな次世代の医療技術につながる基礎研究を発表しました。
もちろん、「痛み」という感情や感覚そのものを直接数値化したわけではありません。今回再現されたのは、熱刺激を受けた神経線維が熱を感知し、電気的な神経信号を発生させて伝えていくという、いわば「痛みの入口」に当たる生物学的なプロセスです。
従来の細胞実験では、培養皿全体を加熱して細胞全体の反応を見る方法が一般的でした。しかしNTTが開発した技術では、マイクロ流路によって神経線維の伸ばす方向を制御し、その経路に微小な発熱素子と計測用電極を緻密に配置しています。
発熱素子には光を熱に変換するナノ材料が用いられており、神経線維の約100マイクロメートルというごく限られた範囲を選択的に、かつ1ミリ秒という非常に短い時間で加熱できます。どの神経線維を刺激し、どこで発生した電気信号を捉えるかまでをチップ上で高度に設計した構造です。
ラット由来の感覚神経細胞を用いた実験では、痛みを感知するような高温域の熱刺激を与えることで、神経信号の発生頻度が増加することを確認しました。さらに、離れた複数の電極で時間差をもって同一の信号が検出され、熱刺激によって生じた電気信号が神経線維を伝わっていく様子も捉えられました。
さらに、1ミリ秒の短い熱刺激を一定間隔で繰り返すと、神経信号の発生頻度が低下し、刺激から発火までの時間も長くなる現象が確認されました。一方で、一旦発生した信号が神経線維を伝わる速度自体には変化が見られませんでした。刺激を繰り返すことで熱を受け取る温度受容体が反応しにくくなる「脱感作」と呼ばれる現象と整合する結果であり、分子レベルで生じる変化が神経機能としてどのように現れるかを、高い時間分解能で追跡できることが示されました。
研究チームは、この技術をヒトiPS細胞由来の感覚神経にも適用しました。熱刺激に対して神経信号の発生が確認されたものの、ラット由来の神経と比較すると、応答の度合いや繰り返し刺激に対する反応の追従性などに違いが見られました。実験で使用した細胞の機能的な成熟度などを反映していると考えられており、細胞レベルでの応答速度や感受性の違いを定量的に評価できる可能性を示しています。
NTTは今後、より少数の神経線維や個々の神経細胞へと対象を絞り、痛みへの感受性や薬剤応答の精度向上を目指します。ヒトiPS細胞等から作製した感覚神経と組み合わせることで、細胞レベルでの個人差を定量化し、将来的には一人ひとりの末梢神経の反応をモデル化して治療効果を予測する個別化医療や、バイオデジタルツイン技術への貢献を見据えています。
一見すると「通信のNTT」がなぜ痛みを研究するのかという疑問も浮かびます。背景にあるのは、同社が進めてきたオンチップ生体モデル技術です。細胞と人工構造物を組み合わせ、生体組織の構造や機能の一部をチップ上に再現し、生体機能の解析や将来的なバイオデジタルツインにつなげる研究を進めています。
痛みは本人にしか分からない主観的な感覚ですが、その入口となる神経の反応を測定できれば、これまで定性的に扱われてきた課題を新しい角度から分析できる可能性があります。今回の成果はまだ基盤技術の段階ですが、「痛い」という生命現象をどこまでデータとして捉えられるようになるのか。通信の枠を超えたNTTの研究開発が、将来の医療技術に新たな視点をもたらそうとしています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













