英国、防衛調達に「国内還元」新制度 海外企業に契約額100%相当を原則要求

2026年10月31日 11:04

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航空機エンジンの製造・整備現場をイメージした画像。英国政府は海外防衛調達に伴う国内投資や技術移転などを促す新制度「UK Offset Policy」を発表した(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

英国政府は2026年10月30日、海外防衛調達を国内の雇用や製造基盤強化につなげる新政策「UK Offset Policy」を発表しました。原則5,000万ポンド以上の契約を対象に、契約額の100%相当の国内還元を標準として求めます。工場投資、雇用創出、技術移転などが評価され、新設される専門機関の監視のもと原則10年間で段階的に履行します。2027年4月から一部案件で適用予定で、日本の防衛関連企業にとっても注視すべき制度改定です。

本文
 英国政府および英国国防省は2026年10月30日、海外企業からの防衛装備・サービス調達を対象とする新たな産業政策「UK Offset Policy(英国オフセット政策)」を発表しました。新制度は、原則として契約額が5,000万ポンド以上の海外防衛調達案件を標準的な検討対象とし、契約額の100%に相当する経済的・産業的価値を英国内へ還元することを求める枠組みです。英国国防省が案件ごとに適用の可否を判断し、2027年4月から一部の調達契約を対象に段階的に適用を開始する予定です。防衛装備の海外依存が続くなかで、政府調達の購買力を活用し、国内の製造能力、高度技術、雇用を強化する狙いがあります。

 海外の受注企業が英国内に還元する具体的な活動として、多面的な取り組みが認定対象に位置付けられています。具体的には、英国内における工場の新設や拡張、設備の近代化といった設備投資をはじめ、新規雇用の創出や技能実習、技術者の人材育成が挙げられます。また、英国企業や国内中小企業に対する部品発注や投資、先端技術や知的財産の国内移転、試作品開発を含む共同研究開発も評価されます。さらに、英国製部品の国内供給網への組み込みや、保守・修理・オーバーホール(MRO)拠点の強化、防衛関連製品の輸出機会の拡大も含まれます。政策文書では、量子技術やドローン、宇宙、AI、サイバー、半導体、先端製造といった戦略分野への波及も重視されています。

 本制度を理解するうえで重要なのは、「契約額の100%」という基準が同額の現金を直接投資する義務を意味するわけではない点です。100%は標準的な評価基準であり、個別案件の性質に応じて引き下げられる場合があります。また、英国政府は戦略的重要性の高い技術や地域への貢献度に応じて「評価倍率(マルチプライヤー)」を設定する方針を示しており、認定されるオフセット価値と実際の金銭支出額は必ずしも一致しません。さらに、既存の通常取引の流用は原則認められず、新制度を契機とする追加的な経済効果が求められます。契約額全額の現金投資を機械的に課すのではなく、政策的優先度に応じた実質的な国内還元を促す仕組みです。

 新制度の実効性を確保するため、英国国防省内には専門組織「Offset Authority」が設けられます。対象案件を受注した企業は、主調達契約とは別に同機関と「Offset Agreement(オフセット協定)」を締結します。標準的な履行期間は協定締結から最長10年間で、通常は3年目までに義務額の30%、5年目までに50%、10年目までに100%を達成する進捗目標が設けられます。期間や目標は案件に応じて調整できます。未履行の場合には、状況に応じて金銭補償や認定クレジットの調整、将来の関連調達競争からの除外などの措置が取られる可能性があります。金銭補償については、別段の合意がない場合、未達成額の10%以上を標準とする規定もあります。

 英国政府が新制度を導入する背景には、海外からの防衛装備調達を国内産業の成長にも結び付けたいという政策的な狙いがあります。政府発表によると、2016/17年度から2025/26年度までの海外産業向け防衛関連契約・サービス支出は累計352億ポンドを超え、同期間の産業・商業向け直接支出の約11%を占めました。また、政府は国防省支出の約85%が英国企業向けだと説明しています。新制度では、海外製装備の調達が必要な場合にも、英国企業への発注や技術移転、国内の製造・保守能力の強化などを通じて、長期的な産業基盤の拡充を目指します。

 今回の政策改定は、防衛装備や先端技術の海外展開を進める日本の産業界にとっても注視すべき動向です。今後、海外企業が英国の大型防衛調達に参入する際には、価格や製品性能だけでなく、英国内にどのような製造基盤、研究開発、取引関係を構築できるかが重要な選定材料となる可能性があります。日英間では防衛協力が進み、イタリアを含む次期戦闘機共同開発計画「GCAP」も進行していますが、政策文書では事前に作業分担が合意された多国間共同事業や条約上の制約がある案件は例外となり得ることが明記されており、現時点でGCAPへの適用が決まった事実はありません。英国の調達方針が国内回帰を強めるなかで、多国間協力の枠組みや参入条件の推移を冷静に見極める必要があります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)