英国、送電網整備と電力市場改革を盛り込む新法案 社会便益226億ポンドを試算

2026年11月05日 10:57

送電線イメージ

高圧送電線と送電鉄塔。英国政府は、送配電網の整備迅速化や電力市場改革を盛り込んだ「エネルギー自立法案」を議会に提出しました。(資料画像)

今回のニュースのポイント

英国政府は2026年11月4日、エネルギー自立法案を議会へ提出しました。再生可能エネルギー拡大に対応するため、送電網の許認可手続きの効率化や土地アクセス制度の見直し、電力市場改革「Reformed National Pricing」を盛り込んでいます。政府は法案と関連二次法令による純社会便益の現在価値を合計226億ポンドと試算しました。本法案は提出段階であり、今後の審議が電力インフラ投資や産業の事業環境に与える影響が注目されます。

本文
 英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は2026年11月4日、国内のエネルギー自立と電力システムの効率化を目指す包括的な新法案「エネルギー自立法案(Energy Independence Bill)」を議会へ提出しました。本法案は、国際的な化石燃料価格の変動が家庭や企業のエネルギー料金に及ぼす影響を緩和するため、クリーンエネルギーの拡大、送配電網整備の迅速化、電力市場制度改革を一体的に進める政策方針です。英国政府は、本法案および関連する二次法令を通じて得られる推計純社会便益の現在価値を、合計で226億ポンドに達すると試算しています。ただし、本法案は議会へ提出された初期段階にあり、法律としての成立や施行、さらには各種制度の運用開始が完了したわけではありません。

 本法案の重要施策の一つが、送電網および配電網の大規模な拡張と更新を加速させるための許認可・土地利用制度の見直しです。英国では電力需要の増加や洋上風力などの再生可能エネルギーの導入が進む一方、送電網への接続待ちやインフラ工事の長期化が重大な課題となっています。政府は、環境保護や土地所有者、地域社会の権利を維持しながら、送配電設備の許認可手続きの効率化や土地へのアクセス手続きの改善、比較的リスクの低い工事に伴う行政負担の軽減などを進める方針です。国立エネルギーシステム運用者(NESO)の分析によりますと、重要送電網の整備遅延を回避できた場合、系統の送電制約に伴う発電出力調整などの制約関連費用を、2030年に約40億ポンド削減できる可能性があると試算されています。

 もう一つの重要な柱として盛り込まれたのが、「Reformed National Pricing(RNP)」と呼ばれる電力市場改革の実施基盤の整備です。これは電力取引、需給調整、送電網の利用料金体系を改革し、電力システム全体の計画と運用を効率化することを目指す制度枠組みです。法案では、既存の手続きでは変更に多大な時間を要していた事業者の免許条件や業界規則について、必要な監督の下で機動的に改定できる権限を整備します。これにより、発電設備と送電網への投資の整合性を高め、投資家に対する予見可能性を向上させる狙いがあります。なお、RNPは市場全体の取引・料金体系の効率化を図るものであり、家庭向け電気料金の全国一律単価を新設・確定したものではない点に留意が必要です。

 英国政府が公表した226億ポンドという数字は、費用便益分析に基づいて算出された推計純社会便益の現在価値です。公表資料の内訳を見ますと、法案本体による便益が32億ポンド、関連する二次法令による追加便益が193億ポンドと推計されています。この数字は政府の財政予算や設備投資の確定額ではなく、制度改革によって期待される社会全体の純便益を示したものです。また、政府は家計支援として「再生可能エネルギー義務(RO)」に関連する費用の国庫負担化を進め、平均的な世帯で年間約90ポンドの料金負担軽減を見込んでいます。さらに、エネルギー規制機関(Ofgem)の権限を強化し、仲介業者の不適切な手数料などを是正することで、事業者の費用負担を年間1億ポンド超削減できるとの試算も示しています。

 法案には電力インフラの改革に加え、エネルギー政策全般にわたる多様な措置が盛り込まれています。陸上風力発電や地上設置型太陽光発電の受け入れ地域に対する利益還元制度の整備や、地域住民による事業共同出資の枠組み拡充が含まれています。また、系統の安定化に不可欠な蓄電池エネルギー貯蔵システムに対し、将来的にスマート制御要件を拡張できる仕組みや、水素を利用した発電の事業モデルの整備も盛り込まれました。さらに、脱炭素化の長期方針として石油・天然ガスの新規探鉱ライセンスの終了に向けた措置も示されていますが、これは既存油ガス田の操業を即時禁止するものではありません。政府は多様な政策手段を組み合わせ、持続可能なエネルギー体系への移行を企図しています。

 今回の法案提出は、人工知能(AI)データセンターの増設や産業の電化によって電力需要の拡大が見込まれる欧州において、送電容量の確保と市場改革が産業競争力に直結することを示しています。送電網の整備加速や需給調整の高度化は、データセンターや先端製造業の立地環境を左右する重要な要素となります。送電ケーブル、変圧器、受配電設備、蓄電システムなどの電力機器・パワーエレクトロニクス分野で高い技術力を持つ日本企業にとっても、英国の送電網整備の方向性は中長期的な海外市場の事業環境を評価するうえで重要な注視点となります。ただし、本法案の具体的な経済効果や実需への波及は、今後の議会審議や二次法令の詳細設計に依存するため、慎重な進捗確認が求められます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)