英UKAEA、核融合実験装置の加熱能力を2倍に 12トンの大型機器設置、2028年に実験開始へ

2026年11月04日 08:35

英国増強計画イメージ

英国原子力公社(UKAEA)が進める核融合実験装置「MAST Upgrade」の加熱能力増強計画を示したイメージ図。中性粒子ビーム加熱出力を現行の4.4MWから8.8MWへ倍増させ、2028年に新たな実験を開始する予定。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

英国政府は11月3日、英国原子力公社(UKAEA)の核融合実験装置「MAST Upgrade」の増強工事で、12トンの大型機器を設置したと発表しました。中性粒子ビーム加熱出力を4.4MWから8.8MWへ倍増させ、プラズマ温度を約6,000万℃へ高める想定で、2028年に新実験を開始する計画です。運転を終了したJETの電源設備も再利用されます。今回の進捗は研究設備の機能向上であり、商用発電の実現とは異なります。

本文
 英国政府は2026年11月3日、英国原子力公社(UKAEA)が運営する核融合実験装置「MAST Upgrade(マスト・アップグレード)」の設備増強工事で、重量12トンの大型ビームボックスを所定の位置に設置したと発表しました。今回の機器搬入と据え付けは、プラズマを高温に加熱する中性粒子ビーム加熱設備の出力を従来の4.4メガワット(MW)から8.8MWへ倍増させる改修計画の一環です。英国政府とUKAEAは、プラズマ温度を従来の約3,000万℃から約6,000万℃へ引き上げることを目指し、関連設備の組み込みを進めて2028年に新たな実験を開始する方針を掲げています。大型機器の設置は重要な進展ですが、今回の発表は研究設備の能力増強に向けた工程を示すものであり、商用核融合発電の実現とは明確に区別して捉える必要があります。

 今回設置された12トンのビームボックスは、追加される中性粒子ビーム加熱装置を構成する大型容器であり、オックスフォードシャー州カルハム・キャンパスの実験棟内へ搬入されました。この据え付け完了を受け、UKAEAは今後、ビームラインを構成する精密機器や電源系統の製造、および装置本体への組み込み作業を本格化させます。関連機器の製造・組み込みを2027年秋末までに進め、2028年には増強した設備を使った新たな実験を開始する予定です。大型機器の据え付け自体は完了した事実であるものの、加熱設備の改修全体としては複数年を要する開発プロセスの途上にあります。

 設備増強の核心となる中性粒子ビーム加熱(NBI)は、電荷を持たない高エネルギーの中性粒子をプラズマに入射し、粒子同士の衝突を通じて熱エネルギーを伝達する基盤技術です。UKAEAの計画では、加熱出力を現行の4.4MWから8.8MWへと倍増させることで、閉じ込めたプラズマの温度を約3,000万℃から約6,000万℃へと高める想定です。ただし、この約6,000万℃という数値は増強後の新実験で目指す研究上の目標値であり、現時点で達成された実績ではありません。また、8.8MWは中性粒子ビームによる加熱装置の出力を示すものであり、核融合反応による熱出力や発電所の電気出力を意味するものではありません。

 実験装置である「MAST Upgrade」は、核融合炉の実用化に向けた基礎研究を担う装置ですが、一般的なトカマクよりも断面が縦長で球形に近い形状を持つ「球状トカマク」と呼ばれる構造を採用しています。球状トカマクは、比較的コンパクトな構造で高温プラズマを磁場に閉じ込める方式として研究されており、安定した閉じ込めと装置内部の熱負荷の制御が重要な技術課題となっています。MAST Upgradeは、超高温に達したプラズマから発生する排熱をいかに制御して排気するかという「排熱処理技術」や材料の耐久性を検証するための研究装置であり、電力網に電力を供給する商用発電プラントではありません。

 今回の改修における産業・技術的な特徴の一つが、過去の研究資産の有効活用です。英国政府の発表によると、今回の増強工事では、長年にわたり欧州の共同研究を支え運転を終了した大型核融合実験装置「JET(欧州トーラス共同研究施設)」の既存電源設備を一部移設し、MAST Upgrade向けに再利用する工事も並行して進められています。最先端の研究基盤を更新するにあたり、既存インフラ設備を再活用することは、研究開発投資の効率性を高める現実的なアプローチといえます。MAST Upgradeで蓄積されるプラズマの挙動や運転制御に関する知見は、英国が進める原型核融合発電所計画「STEP」を含む、将来の核融合装置開発に役立つことが期待されています。

 将来のクリーンエネルギーとして期待を集める核融合技術ですが、実用化に至るまでにはプラズマの長時間維持や炉壁材料の開発、燃料サイクルの確立など、クリアすべき課題が依然として存在します。英国におけるMAST Upgradeの加熱能力増強は、理論計算の検証に必要な極限環境を実験室内に作り出すための着実な技術的ステップといえます。もっとも、今回の進捗は実験条件を高度化するための設備工事であり、商用発電の開始時期や採算性、発電コストが確定したわけではありません。2027年秋末までの製造・組み込み工程を経て、2028年に予定される新実験がどのような知見をもたらすのか、技術開発の着実な進展を見極める視点が重要となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)