AIが政策立案業務の一部を代替する時代へ 財務省、人材育成と行政官の役割を議論

2026年11月06日 14:51

霞が関

東京メトロ霞ケ関駅の案内表示。財務省の財務総合政策研究所は、AI時代における行政官の役割や若手職員の育成について議論している(写真はイメージ)

今回のニュースのポイント

財務省の財務総合政策研究所は2026年10月29日、「AI時代の人材・組織開発に関するワークショップ」の資料を公表しました。行政官の能力のうち課題解決案作成に関わる業務をAIが一部代替していくと予想されるなか、若手職員が判断力や専門性を身につける経験機会をどう確保するかを議論。デジタル庁での幹部層のAI利用状況や海外の生産性研究も紹介し、作業効率化と組織全体の成果の違いも踏まえながら、今後の人材育成と行政官の役割の在り方を検討しています。

本文
 財務省の財務総合政策研究所が公表した「AI時代の人材・組織開発に関するワークショップ」の資料において、生成AIの活用が急速に進展する行政組織で、行政官の役割や若手職員の育成をどう見直すべきかという問題提起が示されました。事務局資料では、行政官の職務遂行能力を「課題発見力」「課題解決案作成力」「合意形成力」の三つに整理した上で、このうち課題解決案作成力に関わる業務をAIが一部代替・補完していく将来像を展望しています。AIが文書作成や情報整理、政策立案の下作業を効率的に担えるようになる一方、若手官僚が実務を通じて試行錯誤し、判断力や専門性を身につける育成機会をいかに担保するかという点が、議論の中心的な論点として浮き彫りとなっています。

 ワークショップ資料では、財務省の組織実態として職員構成や職位別に求められるスキルの変化が整理されています。財務省の級別職員数では4級や5級の層が厚く、職位別の職員数から機械的に算出した下位職位の人数比は、補佐級で2.1人、課長級で155.1人と示されています。これらは直属の部下数を表すものではなく、資料では職員構成の変化を踏まえた人材育成の必要性が指摘されています。また、人事院の調査個票データを基にした本省職員869人のスキル分析では、「情報収集・活用力」が各職位で共通して上位に位置する一方、「課題発見・設定力」は室長級で1位、課長級で2位と上位職ほど重視される傾向がみられました。AIによる業務代替を見据え、部署や職位ごとに求められるスキルを再定義し、若手が成長できる職務設計を進める必要性が提示されています。

 行政現場におけるAIの利用実態としては、デジタル庁における生成AIサービス「源内」のデータが紹介されています。職員1人当たりの月平均利用回数は2026年以降横ばいで推移していますが、職位別にみると上位職ほど利用頻度が低い傾向が示されました。月50回未満の利用にとどまる職員の割合は、課長級で約44%、審議官級以上では約63%に上っています。この数値はデジタル庁の利用実績であり財務省の実績ではありませんが、職位によってAIの利用頻度に違いがあることを示唆しています。ただし、利用回数の多寡は単なる入力頻度を示すものであり、行政実務における活用の質や政策判断の深さを直接測定したものではない点にも注意が必要です。

 ワークショップで講演した一橋大学の宮本弘曉教授は、AIが働き方に与える影響について国内外の研究を紹介しました。海外の実証研究では、AI導入によりソフトウェア開発で週当たりの完了タスク数が26%増加し、顧客対応で1時間当たりの問題解決件数が15%増加した事例が報告されています。注目すべきは、勤続年数が短い労働者や職位が低い担当者ほどAIによる生産性向上の補完効果が大きい点です。AIは若手職員の学習機会を奪うリスクが懸念される一方で、経験不足や知識の浅さを補い、早期に一定水準の実務能力を発揮させる支援ツールとしても機能し得ます。AIを行政組織に導入する際には、効率化と能力開発の双方の側面を客観的に捉える視点が求められます。

 一方で、AIの普及が若年層のキャリア形成に及ぼす課題も研究成果から示されています。米国の雇用データを分析した研究では、AIの影響を受けやすい職業で22~25歳の若年層の雇用が相対的に減少する傾向が観察されており、AIとの因果関係は確定していないものの、初級業務の喪失が若手の育成に与える影響が論じられています。さらに、GitHubの開発者10万人超を対象とした研究では、AI導入によってコード変更行数が741%増加したのに対し、実際のリリース数は20%の増加にとどまったことが報告されました。作業単位の処理速度が劇的に向上しても、レビューや統合、品質管理、公開までの工程が制約となり、組織全体の成果が同率で拡大するわけではない現実を示しています。

 財務総合政策研究所のワークショップは、AIによる政策立案業務の一部代替を見据え、行政官が担うべき役割や業務分担、人材育成を職員自らが考える場として位置付けられています。AIが定型的な分析や素案作成を肩代わりする時代において、政策課題を見いだす力や、複雑な利害を調整する合意形成力を行政官がどう磨くかが問われています。今回の資料は将来の政策決定や制度改正を定めたものではありませんが、AIに委ねる作業と人間が果たすべき責任を仕分けし、若手職員の自律的な思考と経験の機会を組織として再設計することが、これからの霞が関に課された重要な検討課題となっています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)