消費者の「気分」はもう好景気突入?

2013年05月06日 18:45

 アベノミクスの効果が出る経済指標の順番は

 アベノミクスの「三本の矢」と言えば、「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」だが、それで真っ先に元気になるのは金融業界、公共投資増額の恩恵を受ける建設業界、不動産業界だと、誰でも想像がつく。その後、製造業を中心に産業界全体の業績が底を打って上昇し、小売業や外食、レジャー産業のようなサービス業の景気回復は一番最後になるとみられていた。デフレで傷ついた企業の財務をいやし、産業が活力を取り戻すことで雇用が回復し、勤労者の収入が増加して一般庶民のフトコロ具合が暖まってから個人消費に火がつき、それから小売・サービス業が潤うと思われていた。当の小売業の関係者の間でも、タイムラグがあって、いつ出てくるかわからないアベノミクスの効果よりも、来年4月の消費税引き上げ前の駆け込み需要のほうが確実で、期待できるという声は強かった。

 その流れを経済指標で言い換えれば、こうなる。

 「金融緩和」でマネタリーベース、「財政出動」で建設工事受注あたりからアベノミクスの効果が出始め、次に工作機械受注、機械受注、鉱工業生産指数、稼働率指数、日銀短観の大企業製造業業況判断DIなど製造業の生産活動が上向いてくる。それによる企業活動の活発化で人を集める必要が出てきて、オフィス空室率が下がって有効求人倍率や失業率など雇用指標が改善し、それが毎月勤労統計調査の現金給与総額、家計調査、消費者態度指数、景気ウォッチャー調査など庶民レベルの景況感を押し上げる。そして、収入増による個人の消費マインドの回復が小売業販売額や百貨店、スーパー、コンビニ、外食産業などの各売上高、第三次産業活動指数、新車販売台数、新設住宅着工戸数、首都圏マンション販売動向などの数値に反映し、やがて消費者物価指数(CPI)が上昇し始めてデフレの状態を脱し、景気全体の好転が全産業活動指数、景気動向指数や実質GDP成長率で確認される、という順番である。

 消費者個人に直接調査する経済統計は好結果

 ところが、安倍内閣が成立して1月、2月、3月と経過した現状では、発表された経済指標はこの順番通りには動いていない。先に改善するはずの指標なのにまだまだ低迷が続いていたり、逆に、時間がたってから改善するはずの指標が先に大きく上がったりしている。そんな意外性がはっきり見て取れるのが、製造業の指標、雇用関係の指標、個人所得・消費の指標の間である。その数値をここで確認しておこう。

 経済指標の変化(1月・2月・3月)

 製造業の指標は、工作機械受注(-26.4%・-21.5%・-21.5%/前年同月比)、機械受注(-13.1%・+7.5%・未発表/前月比)、鉱工業生産指数(+0.3%・+0.6%・未発表/前月比)、稼働率指数(+1.7%・+0.7%・未発表/前月比)、日銀短観の大企業製造業業況判断DI(12月は-12、3月は-8/3ヵ月ごと)

 雇用関係の指標は、東京都心5区オフィス空室率(8.56%・8.57%・8.56%)、有効求人倍率(0.85・0.85・未発表)、失業率(4.2%→4.3%・未発表)

 個人所得・個人消費の指標は、毎月勤労統計調査の現金給与総額(+0.7%・-0.8%・未発表/前年同月比)、家計調査の2人以上世帯実質消費支出(+2.4%・+0.8%・未発表/前年同月比)、消費者態度指数(43.3・44.3・44.8)、景気ウォッチャー調査(現状判断49.5・53.2・57.3/先行き判断56.5・57.7・57.5)、小売業販売額(-1.1%・-2.3%・未発表/前年同月比)、百貨店売上高(+0.2%・+2.5%・+3.9%/前年同月比)、全国スーパー売上高(-4.7%・-5.5%・未発表/既存店ベース前年同月比)、コンビニ売上高(-0.9%・-4.7%・未発表/既存店ベース前年同月比)、外食産業売上高(-2.2%・-1.3%・未発表/既存店ベース前年同月比)、第三次産業活動指数(-1.1%・+1.1%・未発表/前月比)、新車販売台数(-12.9%・-12.2%・-15.6%/前年同月比)、新設住宅着工戸数(+5.0%・+3.0%・未発表/前年同月比)、首都圏マンション販売動向(-5.4%・-10.9%・+48.4%/前年同月比)

 数字を見ただけでは製造業はいまだに生産の本格回復に至っていない。雇用も横ばい状態である。小売業は株高の資産効果で高額商品が売れているせいなのか百貨店だけやたらに好調だが、他の業態はマイナスが続く。自動車の販売は不振が続いているが住宅着工は順調で、マンション販売は3月になって突然ブレークした。だが、「家計調査」「消費者態度指数」「景気ウォッチャー調査」といった、個人に直接聞いて調査するタイプの経済統計が早いうちからプラスのいい数字が出ている点が注目される。1月の家計調査の+2.4%好転などはまさにサプライズで、アナリストなどから「統計のサンプルの取り方がおかしいのではないか?」という疑問の声があがったほどだった。景気ウォッチャー調査はもともと小売・サービス業の現場の関係者へのヒアリング調査の結果が数値に大きく影響するように設計されているが、スーパー、コンビニ、外食の業界団体の売上統計は依然マイナスでも現場の感覚はまた違うようで、3月は現状判断も先行き判断も好・不況の分かれ目といわれる50を軽くオーバーしていた。