安倍総理は16日開いた日本経済再生本部会合で、さきに閣議決定した日本再興戦略について「日本再興戦略で国民に約束した政策を速やかに実行に移し、できる限り前倒しを検討するとともに、形作りでなく、中身のあるものに仕上げるよう」指示した。
さきの日本再興戦略では民間の力を最大限引き出すことや世界で勝てる人材育成をあげているほか、果実の分配にも言及し、「成長果実の国民の暮らしへの反映」を明記している。
政府は異次元のスピードによる政策実行、国家戦略特区を突破口とする改革加速に取り組むとしている。
まず、日本再興戦略のアクションプランとして、民間投資の活性化や萎縮せずフロンティアにチャレンジできる仕組みの構築など「産業の新陳代謝の促進」をはじめとして、失業なき労働移動の実現(行きすぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換)、多様な働き方の実現、大学改革など「雇用制度改革や人材力の強化」、総合科学技術会議の司令塔機能の強化や研究開発法人の機能強化など「科学技術イノベーションの推進」、世界最高レベルの通信インフラの整備など「世界最高水準のIT社会の実現」、国家戦略特区の実現や空港・港湾など産業インフラの整備や環境・エネルギー制約の克服など「立地競争力の強化」、中小企業や小規模事業者の新陳代謝の促進、国際展開する中小企業や小規模事業者の支援などを行う。
また戦略市場創造プランでは健康寿命の延伸、クリーンで経済的なエネルギーの需給の実現、世界をひきつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現をめざすとした。
国際展開戦略では戦略的通商関係の構築と経済連携の推進を図るとともに、インフラの輸出・資源確保やクールジャパンの推進、対内直接投資の活性化などをあげた。
今回の日本再興戦略で特徴的なのは「成長戦略で目標とした成長率を実現できたとしても、その成果の果実が供給サイトにとどまることなく、最終的には、国民ひとりひとりが豊かさを実感でき、将来への希望が持てるようにならなければならない」と成長への道筋への項で明記したこと。
果実が生まれても、役員報酬や株主配当には還元されても、残りが企業の内部に留保され、従業員の待遇アップに繋がらない事例が珍しくなく、こうしたことが経済政策の中で野党からも大きな懸念材料として指摘され続けている。
政府は「従来の政労会見や経営者団体との意見交換とは別に、政労使の3者が膝を交えて虚心坦懐かつ建設的に意見を述べ合い、包括的解決に向けた共通認識を得るための場を設定し、速やかに議論を開始する」と明示した。成長果実の国民の暮らしへの反映の実効にむけた取り組みを明示したところがこれまでの自民政権と違う部分かもしれない。
ただ、労働時間法制の見直し(秋から労働政策審議会で検討を開始し、1年をめどに結論を得る)や労働者派遣制度の見直し(登録型派遣・製造業務派遣のあり方など有識者で検討をすすめ、その後、労働政策審議会で議論のうえ、早期に法制上の措置を講じる)、また「多様な正社員」モデルの普及・促進を図ること(成功事例の収集・周知を行うとともに、今年度に有識者懇談会をたちあげ、労働条件の明示など留意点を来年度中の早期にとりまとめ周知を図り、企業での試行的導入を促進する)など、労働者にとって環境がよくなるのか、雇用者にとって都合のよいことにならないのか、社会的立場として弱い立場になる労働者の視点でどこまで制度設計できるかが課題になる。
一方、「すべての所得層で賃金上昇と企業収益向上の好循環を実現できるよう、今後の経済運営を見据え、最低賃金の引き上げに努める」とし「その際、中小企業・小規模事業者の生産性向上のための支援を拡充する」とした。(編集担当:森高龍二)