アベノミクス効果で雇用が創出された。最低賃金も上がることになった。しかし、実態は期待とは大きく違う。「いや、これから、多くの国民が期待する雇用の実現、給与所得の増になっていくのだ」というのであれば、これまでの自民党政権とは違う労働者を取り込んだ新たな自民党政権になっていくのかもしれない。
安倍内閣は「最低賃金を引き上げていく環境整備のためにも6月14日に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針及び日本再興戦略に基づき、企業の収益を向上させ、それが雇用の拡大や賃金上昇をもたらすような好循環を生み出すよう努める」と山本太郎参議院議員の質問主意書に答弁した。企業収益の向上を雇用拡大や賃金上昇に波及させる姿勢に言及している点はこれまでの自民党とは確かに違うような気もする。
ただし、企業が期待通りに雇用や賃金に収益を反映させるかどうかは法的担保(例えば、収益の3割以上は非正規社員を含む全従業員に還元させることを法的に定めてしまう)など、思い切った取り組みが必要だろう。
トップ陣が「雇われマダム」と揶揄される経営形態の時代、オーナーと経営者が同一でない状況を映し出したものともいえるが、雇われの身の経営陣は保身のために株主への配当や内部留保には心を砕くが、従業員の待遇改善や新たな雇用にはかなり慎重なのが実態。
それは雇用にも如実に現れた。総務省が13日に発表した4月から6月期の労働力調査で正社員は3317万人となり前年同期に比べ53万人も減少した。一方、非正規雇用は1881万人にのぼり、役員を除いた雇用者数(5198万人)の36.2%を占め、過去最高になった。非正規労働者は前年同期に比べ106万人増え、その7割は賃金の低いパートやアルバイトだった。雇用が増えているという、これが実態だ。
この調査の結果はアベノミクス効果での需要増加を補完的な非正規雇用で対応しようとする経営陣の考えを浮き彫りにしている。本格的な経済の力強さが確認できない限り、正社員採用には踏み切らない。経営陣の慎重さは「経費を抑え、最大限の利益を確保し、株主配当を増やし、内部留保を増やす」との株主への配慮、結果として自身の経営ポストが保証される、そうした状況が強くなりつつある。
加えて、気になるのが労働時間規制の特例を設けようとする政府の動き。本人の同意や労使間の合意を前提にしているが、実験的に大企業で年収800万円以上の課長級以上の社員を対象として労働時間規制(1日8時間、1週間で40時間をこえてはならない。超過分には残業代を払うなどの規制)を撤廃することにより、忙しいときには時間制限なく、暇なときにまとめて休むことができるようにするといえば聞こえはいいが、かなり経営者側の思いを反映した動きだ。労働時間規制を取っ払うことで経営側も労働側も生産性の高まりや競争力強化に成果が期待できるとする考え。
しかし、当初の対象が大企業のみとはいえ、国際競争力を理由に労働時間規制の例外分野を設けてほしいと政府に要望しているのは経営側。大企業であればあるほど、同期組の中で経営ラインに乗っかる課長級以上は重圧の中で仕事をこなし続けているはずで、暇なときにまとめて休めるなどといわれても結局休めず、過労死やうつ病になる確率が上がるのではと懸念される。
経営側は生産性の向上、効率的な利益の確保、そのための法人実効税率の引き下げや投資減税など、最近、政府への要望や提言には定冠詞のように「国際競争力の増強」をつける。労働時間規制の特定分野での撤廃も、非正規雇用の拡大も、おまけに派遣労働規制の見直しも、国際競争力をもって正当化するように受け取れる。国際競争力強化の下でも厳守すべき、あるいは、厳守されるべきは労働環境であり、労働者の所得の底上げこそが、日本経済の活性化と国民生活を安定的なものにする術であるということを自公政権に自覚してほしい。そのためには企業収益を従業員に還元させる「企業収益還元率」を法規定し、実効性をあげることが必要だろう。(編集担当:森高龍二)