日本の農業が抱える問題のひとつに、農業従事者の減少や高年齢化がある。農林水産省のデータによると、基幹的農業従事者は、1995年の256万人に対し、2010年では205万人まで減少。70歳以上の比率は、1995年の19.8%に対し、2010年は46.3%と増え、高齢化が進み、後継者不足も危ぶまれている。そのため、農家の大規模化や農地の大区画化が進んできている。
そんな状況から、農薬散布作業では、従来の主力であった動力噴霧器・乗用管理機よりも、散布に必要な時間が短く、必要な場所に必要な量を散布できるといった、作業効率の高さから、産業用無人ヘリの需要が高まってきている。すでに日本全国における水稲防除におけるカバー面積は35%を担う規模にまで達成。これは、食卓に上がるご飯3杯のうち1杯は産業用無人ヘリで防除しているという計算になる。さらに、最近ではこの無人ヘリを使ったコメ種もみの直播(ちょくはん)による栽培も注目されている。これは、水田に、育てた苗を植える従来の方法(移植栽培=育苗・田植え)に対し、水田に直接種を蒔いていく栽培方法のこと。育苗、田植えの省略により、稲作の大規模化、省力・低コスト化のためのキーテクノロジーとして有望視されているのだ。
そもそも産業用無人ヘリは、1987年にヤマハ発動機<7272>が世界で初めて開発、販売し、動力にはガソリンエンジンを使い、離陸時総重量が100kg未満のラジコン(無線操作)のヘリコプターのこと。国内では主に農業分野で活躍し、水稲、畑作などで種子、肥料、農薬の散布として、また農業分野以外では、福島での放射線量測定や火山での地震計設置など、防災業務、観測・測量業務でも使用されている。
産業用無人ヘリの需要増に応えるべく、ヤマハから次世代モデル「FAZER」が今回発表された。これは従来機に比べ24%の出力アップにより積載量が50%向上し、4サイクルエンジンを燃料噴射装置化にしたことにより低燃費(20%削減)・低騒音(73db→70db)を可能にした。また新設計の送信機や新制御システムの採用により、速度維持飛行(オートクルーズ)ができるなど操作性も向上。販売計画数は国内だけで年間120機を想定し、価格は1千万円以上と、高級乗用車なみだが、購入するのは主にJAや防除業者だ。
無人ヘリが登場する以前の1960~80年台には、有人機も使われていたが、2003年には散布面積でついに無人ヘリが逆転している。現在国内では無人ヘリ2,458機(2013年8月)が活躍し、全メーカー合計で年間200機ほど販売されているが、ヤマハでは2010年代後半までに、全世界で500機の販売目標を掲げている。無人ヘリはOEMを含め国内ではヤマハのほぼ独占状態となっているが、海外では韓国155機、豪州4機、米国2機、タイ2機(13年予定)と、導入実績はまだまだ少ない。
「北米のように商業目的で無人機を飛ばせないとか、豪州のように州ごとに法律が違うなど、法整備の面などでクリアしないといけない課題があります。これからも海外で積極的にロビー活動を行なうことで各国の法整備を促し、海外での販売を拡大していきたい」と、ヤマハ発動機株式会社 UMS事業推進部長である石岡修氏は説明。
産業用無人ヘリは稲作農業を中心にワイン葡萄畑・牧草地など世界のあらゆる農業の分野、でその能力を最大限に発揮できるのだろう。TPP加盟で、さらなる効率化が求められる中、産業用無人ヘリ「FAZER」は、人手不足が常態化している農家の力強い担い手となり、農業技術先進国ニッポンの“攻めの農業”を具現化してくれるに違いない。(編集担当:鈴木博之)